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「今週の本棚:松原隆一郎・評 『社会学の方法-その歴史と構造』=佐藤俊樹・著」、『毎日新聞』2011年12月25日(日)付。

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今週の本棚:松原隆一郎・評 『社会学の方法-その歴史と構造』=佐藤俊樹・著


 (ミネルヴァ書房・3675円)

 ◇「常識」を覆す学問をスリリングに捉える
 「社会って何?」と尋ねたら、「なに青いこと言ってんだ」と返されるのがオチだろう。「机の前で考えてるんじゃなく、世間の風に当たってきなさい」、と。

 では世間を経験するとは、どういうことか。「コミュニティが崩壊しては道徳心がなくなった」とか、「若いヤツはコミュニケーションができなくなった」といった言葉が、世間では横行している。でもそれって、本当なんだろうか? 実はこうした「世間知」には、誤解が多々含まれている。自分の周辺の体験を一般論にした「常識」にすぎないからだ。

 本書によれば、そうした「常識」を覆すのが社会学であるらしい。その百年の経緯を、丁寧な説明と平易な文章で解き明かしている。登場するのは、デュルケーム、ジンメルにウェーバー。パーソンズにマートン、ルーマン。教祖に天才、巨匠に伝道師、達人に鬼才である。それに著者自身が加わって、推論を厳密に突き詰めデータを適切に分析すると、「常識をうまく手放す」方法が鮮やかに示される。

 「共同体が解体しつつある」は日本でも80年前にはすでに言われ始めており(これからも言われ続けるだろう)、「コミュニケーションができなくなった」は「動機の分からない犯罪が増えている」の言い換えにすぎない。しかもデータからすれば凶悪犯罪は長期的に減少傾向にあるから間違いであることが、読み進めば分かってくる。

 本書は「叢書(そうしょ)・現代社会学」という堅いシリーズの一冊。読みやすく最前線を目指すことが執筆の課題とされたという。とすれば普通の社会学の教科書にあるような紹介をそれぞれの偉人に対して手堅く行うというのが、それこそ常識だろう。だが天(あま)の邪鬼(じゃく)な著者は、出版社もしくは編者からのそうした要請に対し一風変わったやり方で応えた。どうデータを扱い推論すれば世間の常識をひっくり返せるのか、その方法こそが社会学であるとみなし、「方法」の展開史を綴(つづ)ったのだ。

 方法の存在に初めて気づいたのがデュルケーム。しかしその方法を上から目線で振り回す特権が社会学者にはないという立場で精妙なエッセイを書いた人がジンメル。方法を駆使し「資本主義は人間の欲望が生んだ」という常識を覆し、「禁欲が生んだ」説の論証に挑んだのがウェーバー。ウェーバーの名人芸を持たない人も使えるスキルの一般化を成し遂げた(つもりで失敗した)のがパーソンズ。パーソンズの失敗を反省し、常識のちゃぶだい返しを連発した達人がマートン。そして法学出身の思考法が社会学や現代思想の最前線にあることを示したのがルーマンだという。そしてルーマンの大振りな表現の鎧(よろい)を脱がせてその方法を使いやすくするのが、著者の挑戦だ。

 推理小説の書き方もしくは手品の種明かしを習うようでスリリングだが、本書にはもうひとつ特徴がある。それは、それぞれの偉人の出自に頁を割いたこと。とくに貧民街出身のマートンが、集票と引き替えに面倒をみる地元のボス組織の分析を行うシーンなど、人生経験を思わせられてグッとくる。

 では、社会って何なのか。社会学の現時点での結論は、「社会とは社会がつくる」というもの。マートンの「予言の自己成就」説は、「A銀行が危ない」という間違った噂(うわさ)が取り付け騒ぎに火をつけると、本当にA銀行は危機に陥るという例を挙げている。社会は、個人の「本当」や「経験」がつくるのではないのだ。常識を振り回すことに疑問を持つ方に、一度をお勧めしたい。
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『社会学の方法-その歴史と構造』=佐藤俊樹・著」、『毎日新聞』2011年12月25日(日)付。

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