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覚え書:「奪われた私:DV防止法10年」、『毎日新聞』1~4まとめ

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奪われた私:DV防止法10年/1 見えない暴力、傷深く

 ◇人格否定、罵倒、無視… 相談しても理解されず
 志村まさ代さん(37歳、仮名)は今、大手メーカーに勤める夫(38)と離婚調停を進めている。
 恋人同士だった12年前、「ミニスカートをはいてほしい」と強要され、無理やりスカートの裾をはさみで切らされた。異常な言動に戸惑い、結婚を決める際は迷ったが、「優しい時もあるし、私が努力すれば何とかなるのでは……」と思った。
 だが一緒に暮らし始めた直後、夫は「パーマや友人との会話は禁止」などと命じた。まさ代さんが友人の結婚式に行こうとすると、「俺の飯はどうなる」「つまらないやつと付き合うな」と怒鳴った。自分の思い通りにならないと、まさ代さんの髪をつかんで部屋中を引きずり回し、真冬の深夜、暖房のない納戸に「反省するまで出るな」と押し込めた。 それでも「100%家事や育児をこなせば夫は怒らないだろう。自分の努力が足りないのだ」と思った。
 しかし、3、4年前、「仕事を辞めろ」と迫られた時、「私の人生、これでいいのか」と疑問がわいた。長男(8)と長女(6)はいつもおどおどし、母親に強く甘えるなど赤ちゃん返りするようになっていた。
 思い切って地元の家庭支援センターを訪ねた。だが「男の人は子どもみたいなもの。3人育てるつもりで頑張りなさい」と言われただけだった。不眠が続き、突然涙が出たり、気力もなくなった。心療内科に通ったが、医師は薬を処方するだけ。離婚調停のために取り寄せたカルテには、医師に訴えた夫の暴力について何の記載もなかった。
 今年2月、必死の思いで子どもを連れ、民間のシェルターに駆け込んだ。助言を得て離婚調停を申し立てたが、裁判官からは「夫婦のいざこざに子どもが巻き込まれてかわいそう」「私は転勤の多い仕事だから、妻は仕事を辞めた。当たり前のこと」と言われた。

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身体的暴力が明らかでも、専門の相談員や司法関係者の中にはDV(ドメスティックバイオレンス)と認めない人がいる。これが言葉や態度による支配など精神的暴力となるといっそう困難だ。
 「体に暴力をふるわれていれば、20年も一緒にいなかった」と、山口みのりさん(47歳、仮名)は話す。
 24歳で大学の同級生だった夫と結婚した。みのりさんは教師だったが、家業を継ぐ夫のため退職した。
 夫は食事が気に入らないと、「なんでこんなものを作るんだ」と何時間も責め立てる。「でも……」などと一言でも口答えすれば、「うるさい!」と怒鳴ってテーブルをたたく。2週間以上、一切口をきかず、みのりさんが読んでいる本や友人らを罵倒し、「おまえはおかしい」「バカだ」と日々繰り返す。
 「何を、どのタイミングで切り出すか、よく考えてから夫に話さないとすぐに攻撃された。とにかく怖かった」という。だが、夫は一人娘を溺愛し、友人や親戚からは「家族思いのいい夫」と評価されていた。
 4年前、みのりさんは持病のぜんそくが悪化し入院。不眠症やうつ傾向も出た。夫の帰宅時間になると体が震え、心臓がバクバク鳴った。そんな時、ふと手にした本に「精神的ハラスメント(暴力)」の記述があった。
 「(相手が)口をきかない」「家の不出来を次々に指摘する」「いったん始まると数週間から数カ月続く」--。自分の家で起きていることと一致した。
 すぐに地元のDV相談センターを訪ねたが、「身体的暴力がないと対応できない」と言われた。その後、離婚裁判を起こした。精神的DVを訴え、友人7人の意見陳述書や医師3人の診断書を提出したが、「すべて却下され、被害妄想とされた」。
 今は実家に戻り、週2回、高校の非常勤講師を務める。しかし娘には理解されず、会えないままだ。朝晩の抗うつ剤と睡眠薬は欠かせない。「実母や妹もいまだに理解してくれず、つらい」と話す。
 内閣府が今年2~3月に実施した「パープルダイヤル-性暴力・DV相談電話」には約2万3000件の相談が寄せられた。89%は女性からで、暴力に関しては精神的暴力(75・9%)が身体的暴力(50・9%)を上回った。
 原宿カウンセリングセンター(東京都渋谷区)の信田さよ子所長は「身体的暴力はわかりやすいが、精神的なものは見えにくく、なかなか理解されない。本人もDVと気づくまで時間がかかるため、精神的ダメージがより大きくなる」と話す。

     *
 DV防止法が施行され今年で10年となる。夫婦や近親者の間の暴力が社会の問題として認識されるようにはなったが、まだ十分に理解されず、恋人間の暴力「デートDV」など、新たな問題も浮上している。DVの被害に苦しむ女性たちの話を聞き、現状を探った。=つづく

 ◇DV防止法
 01年施行。04、08年の改正で、身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的暴力も防止対象に含まれた。被害者の申し立てにより、裁判所は被害者や子ども、親族らへの接近禁止や退去などを命じる「保護命令」を出す。警察庁によると、10年のDV事案は3万3056件。被害者の97・6%を女性が占める。

 ■DVの主な相談・支援機関
 ◇配偶者暴力相談支援センター
 DV防止法に基づき、被害者の一時保護などを行うセンターが各都道府県に設置されている。
 ◇DV相談ナビ
 (24時間。最寄りの相談窓口を音声ガイドで案内)電話0570・0・55210
 ◇デートDV110番
 (火曜18~21時、土曜14~18時)電話050・3540・4477
 ◇日本司法支援センター
 (法テラス・平日9~21時、土曜9~17時)電話0570・078374
 ◇警察相談専用電話
 (平日8時半~17時15分)電話#9110
    --「奪われた私:DV防止法10年/1 見えない暴力、傷深く」、『毎日新聞』2011年12月20日(火)付。

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http://mainichi.jp/life/housing/news/20111220ddm013100019000c.html


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奪われた私:DV防止法10年/2 別れぬ理由「怖いから」

 ◇「交際中の束縛」愛と誤解 法の対象外、対策に地域差
 「そんなことして何になるの?」「バカじゃない」

 森由香さん(20代、仮名)は数年前、ある男性と付き合い始めて数カ月たったころ、何かに興味を持つたび、男性からけなされるようになった。「けんかして前の彼女をボコボコにしてやった」とも聞かされた。ある日、由香さんの携帯電話を勝手に見た男性は、別の男性からのメールを見つけて激高。由香さんの髪をつかんで殴りつけた。顔の骨が折れ、鼓膜も破裂。由香さんは裸足で逃げた。
 「今思うとあのころは毎日うつうつとして、無意識に彼の言動におびえていた」と話す。
 吉田遥さん(30代、仮名)は高校時代、他校の男子生徒と「ラブラブのカップル」だった。学校の休み時間も電話で連絡を取り合い、友達に「愛されてるね」とうらやましがられ優越感があった。彼とずっと一緒にいることが自分の幸せだと信じていた。でも本当はとても嫌なことを我慢していた。
 会うたびにセックスを迫られた。コンドームを使わないことも多く避妊もいいかげんで、毎月、生理が来るまで頭は不安でいっぱい。それでも「彼の要求を断る」という発想はなかった。「付き合えばエッチは当たり前」と思っていたからだ。
 20代でその男性と結婚したが、「お前は最低の人間」など言葉の暴力が激しくなり、ついに離婚。「互いに束縛するのが愛だと信じていた。人生の大事な時期を無駄にした」と遥さんは悔やむ。

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 交際中のカップルの間に起きる暴力は「デートDV(ドメスティックバイオレンス)」と呼ばれる。内閣府が10~20代で交際相手がいる(いた)1742人に実施した調査(09年3月公表)では、身体的な暴力や心理的攻撃、性的行為の強要を一つでも受けたことがある、と答えた女性は13・6%で7人に1人だった。男性の場合は4・3%。うち命の危険を感じた経験があるという女性は21・9%(男性は2・9%)に上った。
 デートDVの特徴は、相手を束縛して、支配すること。携帯電話の普及が束縛を容易にし、相手がメールにすぐ返信しないと怒ったり、異性のアドレスを強引に消去させたりする行為も広がっている。ただ本人も周囲も「束縛は愛されている証拠」と肯定しがちなため、支配されていることに気づかないのが実態だ。悩みを独りで抱え込む人も多く、公的機関に持ち込まれるケースはほとんどない。
 「デートDVが生まれる背景の一つに、メディアの中の誤った情報の氾濫がある」と、デートDVの防止に取り組む一般社団法人「notice」の竹内由紀子代表は指摘する。
 漫画の中では、好きな相手に突然キスしたり、強引に連れ去るなど相手の意思を無視した行為はロマンチックに描かれる。「特に恋愛=性関係という思い込みがすごく強い」と竹内さん。男女が付き合えば当然のようにセックスの場面になり、望まない妊娠や性感染症のリスクを知らせることはほとんどない。
 デートDVの被害者は「別れればいいじゃない」と思われがちだが、実際には簡単にいかない。内閣府の調査では、被害を受けた女性の35・9%が「別れたいと思ったが、別れなかった」と回答し、その理由を「相手の反応が怖かった」などとした。たとえ別れても、携帯メールで脅されたり、ツイッターなどで追跡され、数年たっても「追われている」とおびえる被害者も多いという。

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 「相手と別れようという時が危ない。そんな時は絶対2人で会わないこと。『別れたら死ぬ』と言うのも言葉の暴力ですよ」
 12月初旬、神戸市の神戸学院大で学生を対象に「デートDV予防啓発講座」が開かれた。NPO法人「ウィメンズネット・こうべ」の講師、柴田多恵さんが、束縛の定義や男女の役割の偏見、カップルが対等な関係を築くヒントを紹介。「みんな良い恋愛をしてね」と語りかけると、学生たちは神妙な表情でうなずいた。
 NPOや一部の自治体がここ数年、デートDVの予防活動に乗り出している。横浜市のNPO法人「エンパワメントかながわ」は07年から啓発講座を始めた。高校生の間で既に多くのデートDVが発生しているとして、1月からは県と連携し、若者向けのデートDV専門相談110番も開設。「彼が避妊してくれないので2度中絶し、3度目の妊娠をしている」「彼に車でひかれかけた」など深刻な被害が寄せられ、加害者側の男子生徒からの相談もあった。
 しかし現行のDV防止法は交際中のカップルを対象としていない。このためデートDVへの取り組みは地域間でバラツキが大きい。エンパワメントかながわの池畑博美・事務局長は「現在はデートDVの被害者に対し、支援団体や公的機関ができる範囲で何とか対応している。法律でカバーし、きちんとした受け皿を整えるべきだ。当事者が中高生や大学生の場合、学校や保護者との連携も欠かせない」と訴える。=つづく

■デートDV危険度チェック

◇相手の暴力的態度を見分ける
□相手は「ブス」「バカ」など傷つく呼び方で呼ぶ
□他の用事で会えないと相手は「自分を最優先にしない」とふてくされる
□しょっちゅう携帯に電話してきたり、あなたがどこで誰と会っているか気にする
□あなたの携帯をチェックして異性の友人のアドレスを消すよう要求する
□あなたは相手を怖いと思うことがある
□相手はとても優しかったり、すごく意地悪だったりする(二重人格的)
□ケンカした時、怒らせるのはあなたが悪い、あなたのせいだと責める
□「おれ(私)のことが好きならいいだろう」と気の進まないことをさせる

 ◇自分の暴力的態度に気付く
□相手が自分の意見に従わないと腹が立つ
□相手の行き先、服装、することに、いちいち指示する権利があると思う
□相手がどんな人と話しているかすごく気になりイライラする
□「自分とあいつ(人や物)とどっちが大切なんだ」と言ってしまう
□腹が立つと、相手の目の前で物をたたいたり、大きな声を出す
□相手はいつも自分の言うことを聞くべきだと思う
□相手が自分のことを好きなら、嫌なことでも応じるべきだと思う
※一つでも該当すれば要注意。
 (ウィメンズネット・こうべのデートDV予防啓発講座資料より)
    --「奪われた私:DV防止法10年/2 別れぬ理由『怖いから』」、『毎日新聞』2011年12月21日(水)付。

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http://mainichi.jp/life/housing/news/20111221ddm013100129000c.html


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奪われた私:DV防止法10年/3 悪いのは俺だけ、じゃない

 ◇「加害」の認識乏しく 価値観変える取り組み始まる
 川野洋二さん(30代後半、仮名)はすらりとした長身。笑顔がさわやかだ。とても問題を抱えている人のようには見えないが、「今にして思えば、妻を力でコントロールすることが自分にとって一番楽だったんでしょうね」と話し始めた。
 30歳の時、7歳年下の妻と結婚。3年前に長男が生まれたが、当時は仕事が忙しく、帰宅するのは毎日深夜。育児も家事も手伝うことはなかった。ストレスから家にいると意味もなくイライラし、ドアを思い切りたたいたり、雑誌や新聞を壁に投げつけたりした。 妻から話しかけられるとわずらわしく、「うるさい」「イエスかノーで答えろ」と怒鳴った。夫婦のくつろいだ会話はほとんどなく、妻の言葉は無視するか、ことごとく遮るだけだった。
 一昨年2月、親子3人で家族旅行に行くことになった。出掛ける直前、子どもが誤って炊飯器の湯気でやけどをした。川野さんは「なんで子どもをちゃんと見られないんだ!」と妻を怒鳴り、激しく責めた。宿泊先の宿に着いてからも、「包帯の巻き方が違うだろ!」などと怒って、妻の手の甲を思いきりたたいた。その後、妻は子どもを連れ実家に帰ってしまった。
 妻から届いたメールに、意外な思いがした。「あなたのやっていることはDV(ドメスティックバイオレンス)です」。でも、この時は自分をじっくり省みることもなく、「俺だけが悪いわけがない。妻の方にも問題がある」と思い、憤りさえ感じた。
 1カ月後、妻の実家を訪ねた。川野さんを見ると、顔が真っ青になり、全身をぶるぶる震わせた。自分を激しく怖がる妻の様子に、「初めて自分のしたことの重大性を感じた」という。

     *
 1年前、妻が家を出てしまい、現在1人暮らしをする林義雄さん(62歳、仮名)。部屋の隅々まで掃除が行き届き、チェストの上には子どもや孫の写真が飾られている。食卓には柿やくず餅などが置かれ、来客への心遣いが感じられた。
 同い年の妻とは24歳で結婚し、2人の息子に恵まれた。息子たちも独立し、結婚生活は40年近くになる。この間、林さんの口癖は「誰が食べさせてやってるんだ」「なんで俺の言うことがきけないんだ」「嫌なら出ていけ」の三つの言葉だった。
 「男は外で稼いでくる、女は男に言われた通り、家の中のことをすればいい。妻を奴隷的に扱っても構わない、と思っていた」と林さんは振り返る。
 10年ほど前にも、妻は、家を出たことがあった。この時、息子は「お父さんのやっていることはDVではないか」と言い、DVに関する本を2、3冊送ってきた。「自分がやってきたことは精神的DVだったのか」と初めて気付いた。
 民間団体が実施しているDVの加害者向け更生プログラムに1年間通った。でも「夫婦だから、お互いに至らないところはある」という思いは変わらず、自分に大きな問題があるとは考えられなかった。妻に対する怒りはある程度、抑えられるようになったが、数カ月後には以前と同じDV状態に戻った。
 2年前に金融関係の仕事を退職し、一日中家にいるようになると、DVはエスカレート。自分の気分で「飯!」と要求した。風呂が沸いていなかったり、湯が熱すぎたりすると「なにやってんだ!」と妻を罵倒し、日常のささいなこと一つ一つに声を荒らげた。

     *
 DVをなくすには、被害者女性の緊急保護や心身のサポートだけでなく、加害者が自分自身の暴力に気付き、価値観を変えることが必要だ。そんな思いから、東京都千代田区の民間団体「アウェア」では02年、「DV加害者男性のための教育プログラム」を始めた。20~60代の公務員、会社員、自営業などさまざまな男性が参加している。
 参加者は原則として、週1回、計52回以上通わなければならない。妻への虐待行為をはじめ、「DVは犯罪だ」「DVは支配だ」などをテーマにグループで話し合いが持たれる。
 プログラムに参加していることを理由に、男性が離婚調停を有利に進めたり、妻に戻ってもらう手段にしないよう、アウェアは妻にも必ず面談し、夫の参加を希望するか否かを確認している。
 同団体の山口のり子代表は「DVはコミュニケーション能力の有無ではなく、価値観の問題だ。自分が優位に立ちたいという思い込みがDVに結びつくということに気づいてほしい」と話す。
 千葉県で同様のプログラムを実施している「notice(ノーティス)」の竹内由紀子代表は「DVの加害者が変わることは難しい。でも、暴力は後天的に学んだことなので、変われないはずはない。重くて脱ぎにくい男のよろいや、男女役割意識の価値観から脱却することが大切だ」と強調する。
 川野さん、林さんとも現在、加害者更生プログラムに週1度、1年以上通っている。林さんは「人を支配したりコントロールするのは悪いことだと思うようになった。妻が喜ぶこと、望むことを1日1回は考えるようになりたい」と話す。
 川野さんは「自分を見つめ直すことで、怒りを抑えることができるようになった」という。そして今、できることなら、妻とやり直したいと思っている。「自分がまず、変わらなければいけない。妻にしたことは一生かかっても取り返せないが、一つずつ笑顔の共通体験を重ねていけたら」と希望を持つ。=つづく


 ■DV加害者プログラムを実施する民間の相談機関
 ◇アウェア(東京都千代田区)
 電話03・3292・5508
 ※プログラムのファシリテーター(実施者)の養成もしている。

 ◇RRP研究会(同渋谷区)
 電話03・5485・3636

 ◇SEDA(シーダ、同豊島区)
 電話03・5928・5277

 ◇notice(千葉県船橋市)
 電話047・402・6572

 ◇松林カウンセリングルーム(静岡県藤枝市)
 電話054・635・8587

 ◇地域支援ネットそよ風(徳島市)
 電話088・654・1225

    --「奪われた私:DV防止法10年/3 悪いのは俺だけ、じゃない」、『毎日新聞』2011年12月22日(木)付。

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http://mainichi.jp/life/today/news/20111222ddm013100013000c.html


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奪われた私:DV防止法10年/4止 おびえ、傷つく子ども

 ◇夜泣き、多動…虐待連鎖の恐れ 影響軽減へ心理教育
 当時3歳だった長男は食が細く、その日も食事が進まなかった。夫はテーブルを思いきりたたき、「もう食うな。腹が減って謝っても絶対食わすな!」と怒鳴り、食べかけの食事を台所に投げつけた。長男は急に魂が抜けたような表情になり、目は宙をさまよった。 「もうだめだ、このままでは子どもがどうにかなってしまう」。岡田育子さん(43歳、仮名)は覚悟を決め、長男の手を引いて民間のシェルターに逃げ込んだ。
 同い年の夫とは職場で出会い、恋愛結婚した。とても優しかったが、結婚して一緒に暮らし始めると一変。何か気に入らないことがあると怒鳴り、部屋に引きこもった。「こんなもの食えるか!」と、食事を捨てるよう命じたり、育子さんの服や靴が「邪魔だ」といってはゴミ袋に入れた。
 攻撃は育子さんより、むしろ長男の方に激しかった。まだ乳児だった長男が風呂でぐずると、無言で湯に沈めた。育子さんが気づき、慌ててやめさせると「こいつが勝手におぼれた」と言った。長男がぐずって父親をたたくと、力いっぱいたたき返すこともあった。虐待は日々、繰り返されるようになった。
 シェルターに移って数週間、長男の夜泣きが続いた。友達をたたくことも多かった。育子さんがしかると「ママは僕のことが好きじゃないんだ」と泣きじゃくった。
 半年後、支援者の力を得て離婚した。母子支援施設で暮らし、生活も安定してきたが、長男は小学校に通うようになると、「どうせ僕なんか何もできない」「僕が子どもでごめんね」と、自分を否定するようになった。ある子どもの集まりで、長男の言葉や態度が乱暴で目に余ったため、きつくしかると「ママをもっと怒らせたら、優しくしてくれると思った」と話した。
 その場にいたカウンセラーが「暴力のサイクルができあがっているのではないか」と言った。そして、育子さんに「怒った後で優しくするのはやめる」「大声で怒鳴らない」などを心掛けるようアドバイスした。
 このアドバイスに従って接すると、長男は少しずつ落ち着きを取り戻してきた。ただ、今でもテレビで動物の世界の弱肉強食の場面が映し出されると、「嫌だ。見たくない」と泣きながら激しく拒絶する。学校で担任の教師に大声で怒鳴られた時は、「もう怖くて行けない」と言い、1週間学校を休んだこともあった。メンタルクリニックの主治医には「PTSD(心的外傷後ストレス障害)とうつ状態」と診断された。
 「夫から離れ6年たった今でも、子どもにはDV(ドメスティックバイオレンス)の影響が残っている。お互いを尊重するコミュケーションをとりながら乗り越えるしかありません」と育子さんは話す。

   *
 DVは基本的に夫婦間の問題ととらえられ、子どもへの影響が置き去りにされてきた。しかし、子どもに対する虐待の深刻さに加え、子どもがトラウマを抱えたまま成長するなど問題は小さくない。暴力をふるう父親が男性モデルとなるため、大人になった時に同じようなDVや虐待が繰り返される確率も高いとされる。
 DV被害女性の緊急一時保護や就労支援など幅広い活動をしているNPO法人「女性ネットSaya-Saya」(東京都荒川区)は、こうした子どもへの影響を軽減するため、被害女性とその子どものための心理教育プログラム「びーらぶ」を07年から始めた。
 松本和子代表は「子どもたちは夜泣き、多動、暴力などさまざまな問題を抱え、母親は受け止め方がわからず戸惑っている。こうした親子が落ち着きを取り戻し自分らしく生きるためのプログラムは大切」と話す。
 スタンダード(12回受講)を基本に、高学年、低学年、就学前など、年齢に応じたプログラムを準備している。遊びや人形劇を通じ「自分は大切な存在であること」を子どもたちに知らせ、「自分の気持ちを感じ、表現する」方法を学ばせる。また、インストラクターの養成講座を徳島、熊本など全国11カ所で開き、現在までに250人が習得した。
 川崎早紀さん(44歳、仮名)は、インストラクターとして月に数回、子ども向けのプログラムを担当している。早紀さん自身、07年に当時小学3年と幼稚園だった2人の子どもを連れ、暴力を振るう夫から逃げ出したDV被害者だ。
 夫は生活すべてを支配し、気に入らないことがあると早紀さんを殴りつけた。子どもが口答えすると、髪を引っ張って玄関まで引きずり、家の外に突き飛ばそうとした。思いあまって「離婚したい」と切り出したとたん張り倒され、気がつくと夫は馬のりになり、早紀さんは首を絞められていた。「ああ死ぬんだ、と思った」という。
 「こんな生活は、子どもにとってよくない」と決意して夫の元を飛び出した。今は常勤で働き、親子3人協力しながら穏やかな生活を過ごしている。
 「家庭内の暴力は、子どもにとって虐待そのものです。子どもが生きた心地がしないまま暮らすのはおかしい、と気づくことが大切。DV被害の当事者として自分らしく生きられる社会を作るため、私は精いっぱい活動をしていきたい」と力強く話した。=おわり(この企画は小川節子、稲田佳代が担当しました)

 ■DVの子どもへの影響
・不眠、悪夢、眠りへの恐怖感
・頭痛、腹痛など
・攻撃的、怒りの感情
・異常なほどの多動・神経過敏で常に心配している
・それまでできていたことができなくなる(トイレトレーニングなど)
・友達から遠ざかったり、子どもらしい活気がなくなる
・何に対しても感情を表さない
・愛する人の安全を過度に心配する
・集中できない
・繰り返し暴力的なことをして遊ぶ
 (日本DV防止・情報センターによる)

 ■子どものための相談機関
 ◇チャイルドライン
 18歳以下が対象。月~土曜の午後4~9時。電話0120・99・7777

 ◇児童相談所全国共通ダイヤル
 24時間。最寄りの相談窓口へ案内。電話0570・064・000

 ◇Saya-Saya
 電話03・6806・8684~5
    --「奪われた私:DV防止法10年/4止 おびえ、傷つく子ども」、『毎日新聞』2011年12月23日(金)付。

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http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111223ddm013100005000c.html

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