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覚え書:「私のリーダー論:日本再生を/5止 神戸女学院大名誉教授・内田樹さん」、『毎日新聞』2012年1月12日(木)付。

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私のリーダー論:日本再生を/5止 神戸女学院大名誉教授・内田樹さん

 ◇求められる「父権」型--内田樹さん(61)
 世界の主な国々の指導者が30~40年前に比べると低年齢化している。単に年齢が若くなっているだけでなく、父権主義(パターナリズム)から反父権主義へという大きな流れがあると思う。

 国民と政治家はかつて信託と負託の関係だった。国民はすべてをのみ込んだ「国父」とでもいうべき人物に権限を委ね、それに対して政治家は「悪いようにしないから任せてくれ」と受け止めた。「父と子」を模したこの関係は世界経済のグローバル化によって崩れたのだと思う。市場原理が政治過程に入り込むと同時に、「父」よりむしろ「ビジネスマン」が統治者として好まれるようになったからだ。中長期的な国家ビジョンを構想できる人物よりも、マーケットの動きに機敏に反応して、そのつどの最適解を選択できるスピード感のある政治家を国民は選んだ。政治はそうやって限りなく経済活動に近づいていった。

 だが、実際の政治過程はそれほどシンプルではない。国民国家という制度はもう賞味期限が切れたかと思われたが、欧州連合(EU)の現状を見ると話はそれほど簡単ではない。グローバル化がどこまで進んでも、絶対にここだけは譲れないというローカルな価値は残る。グローバル化による標準化圧に対して、固有の言語や宗教や伝統文化を軸にまとまった国民国家が激しい抵抗を示している。

 日本の場合、1億3000万人の列島住民をどう食わせるかという課題は国民国家が担うしかない。グローバル企業はある国の国内雇用や福祉や地域経済の振興に何の責任もないし、何の関心もないからだ。誰かがそれを担わないと生産性の低い個人は切り捨てられる。個人の能力や生産性にかかわらず全国民を扶養するという仕事は国民国家以外に担い手がいない。

 行き過ぎたグローバル化に対する抵抗は国民経済の再構築という形で組織されるはずだし、世界の国々は数年以内にアンチグローバリズムにかじを切ると私は予想している。そのとき人々はリーダーとして「父」的なタイプを求め出すのではないかと思う。

 東日本大震災で露呈したのは、日本の統治者たちが現場に権限委譲することを非常に嫌い、すべてを中枢的に統御しようとして、かえってコントロール不能に陥って被害を広げたということだった。これほど広域で多様な危機に対しては、事情を熟知した現場にフリーハンドを与え、政府はそれを支援するという形が合理的だが、官邸も霞が関も病的なまでにそれを嫌った。

 日本の組織がどれも機能不全に陥っているのは、上意下達組織を作り、中央集権的にすべてを統御しようとして、前線に権限委譲しないからだ。前線指揮官にフリーハンドを与え、功績は部下に譲り、責任は自分が取るような父権的なリーダーを今、日本人は求めていると思う。【聞き手・佐藤千矢子、写真・川平愛】=おわり

人物略歴 うちだ・たつる 1950年東京都生まれ。東京大学文学部卒。思想家。武道家。専門はフランス現代思想。「私家版・ユダヤ文化論」で小林秀雄賞。ユダヤ人問題のほか教育論、武道論、映画、漫画の評論でも知られる。「日本辺境論」「下流志向」「武道的思考」など著書多数。
    --「私のリーダー論:日本再生を/5止 神戸女学院大名誉教授・内田樹さん」、『毎日新聞』2012年1月12日(木)付。

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http://mainichi.jp/select/seiji/news/20120112ddm005010168000c.html


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