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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 『ふつうの暮らし』で輝く 大熊由紀子」、『毎日新聞』2012年1月13日(金)付。

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くらしの明日 私の社会保障論 「ふつうの暮らし」で輝く
大熊由紀子 国際医療福祉大学大学院教授

真の福祉は想像力と度胸から

 プロの和太鼓集団「瑞宝太鼓(ずいほうたいこ)」が、震災被災地の海辺で鎮魂の演奏を始めた時のことです。吸い寄せられた人の輪の最前列にいた女性が、赤ちゃんの遺影を取り出しました。そして写真に語りかけ、一緒に演奏に聴きいりました。
 瑞宝太鼓がしばしば演奏に訪れる少年院からの手紙には、こうありました。
 「自分をより大きく見せようと見栄を張る、そんな心をぶっ壊してくれました。心を洗ってくれるようでした。絶対に自分を変えます」
 演奏する団員はいずれも重い知的なハンディを負っています。何が人の心を揺さぶるのか、源をたどると「愛する人と、ふつうの場所で、ふつうの暮らしを」というノーマライゼーション思想を掲げる、南高愛臨会・コロニー雲仙に行き着きました。
理事長の田島良昭さんは、かつて心身障害者対策基本法の制定に奔走しました。施設をつくれば幸せにできると信じてのことでした。ところが施設を訪ねると、ご本人たちはションボリしていました。
 訳を突き止めようと78年、自ら施設をつくり、利用者と同じ広さの厨房控室に親子3人で住み込みました。そして知ったのは「施設には普通の生活がない」ことでした。

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 自立訓練という、今でいうグループホームをつくり施設の外で暮らせるようにしてゆきました。当時は法律違反。行政はとがめましたが「不幸になった人がいるのかどうか裁判で争おう」と撃退し、07年までに施設をからにしてしまいました。日本の最先端をいく施設解体です。
 能力開発センターの町の中で働ける力をつけました。太鼓もその中で生まれました。ところが田島さんは、再び衝撃を受けました。グループホームと仕事場の往復だけの人は、変に落ち着いたおじさんおばさんになってしまっている。対照的に愛する人がいる人、結婚している人はときめいていました。そこで結婚推進事業「ぶ~け」をつくりグループホームの解体始めました。アパートで暮らすカップルが増えてゆきました。
 てんかん発作と知的なハンディを負った青年が理事長を務めるNPOふれあいネットワーク・ピアは、ケアホームなど公的福祉事業の認可を受けるほどに成長しました。
瑞宝太鼓は人々を魅了するのはバルセロナのパラリンピック閉会式に招かれるという演奏技術のすばらしさだけではなく、メンバーが恋人や家族をもち、仕事に誇りをもって輝いているからでした。
 昔作られた法律の枠を超えたところにこそ、真の福祉があるようです。それを実現するために必要なのは、本人の願いへの想像力と改革する度胸だと私には思えます。

ことば ノーマライゼーション どんなに障害が重くても、人は「ふつうの暮らし」をする「権利」をもち、社会はそれを実現する「責任」があるという思想。第二次世界大戦中、反ナチ運動で捕らえられ強制収容所を体験したN・E・バンクミケルセンが、施設と収容所に共通する問題に気づき、59年、デンマークの法律に盛り込んだ。
    --「くらしの明日 私の社会保障論 『ふつうの暮らし』で輝く 大熊由紀子」、『毎日新聞』2012年1月13日(金)付。

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