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「語る:ドナルド・キーンさん 著作集全15巻の刊行開始」、『毎日新聞』2012年1月12日(木)付。

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語る:ドナルド・キーンさん 著作集全15巻の刊行開始

 ◇日本文学の粋、ルビと索引充実
 日本文学研究で知られる米コロンビア大名誉教授、ドナルド・キーンさんの著作集(全15巻、新潮社)の刊行が始まった。初めての日本語作品「碧(あお)い眼(め)の太郎冠者(かじゃ)」(1957年)から最新評伝までを網羅し、隔月で刊行する。東日本大震災を機に日本国籍取得と永住を決意したキーンさんは、日本文学の声価を世界に高めた功労者。「第2の祖国」で修訂を進める著作集に込めた思いを聞いた。【棚部秀行】

 「ドナルド・キーン著作集」では、日記文学を論じた「百代の過客」や、古典芸能論「能・文楽・歌舞伎」、評伝「明治天皇」など、70年に及ぶ研究成果のほとんどを読むことができる。第1巻『日本の文学』(3780円)には、英ケンブリッジ大での52年の公開講義を和訳した「日本の文学」(63年)などを収めた。

 この巻には、英文百科事典『エンサイクロペディア・ブリタニカ』に更新しながら書いてきた「日本文学」の項を、英文でそのまま再録している。冒頭は<質量ともに日本文学は世界の主要文学の一つといってよく、その伝統と豊かさにおいて英文学に匹敵する。しかし発達の過程は全く異なっている>。多くの外国人に、日本文学に接する手がかりを与えたであろう言葉。「西洋では、人にものを教えるために文学がある。日本では勧善懲悪や人間の義務を書くものが少なく、人の心が文学の中心になっています。日本文学全般には二つのテーマがあり、それは『自然』と『愛』です」と、その特性を述べた。

 振り仮名(ルビ)と索引にもこだわっている。例えばシェークスピアを指す「沙翁」は、「さおう」か「しゃおう」か。文献には両方が同頻度で出てくるが、迷わず「しゃおう」を選んだ。「(この表記を採用した)坪内逍遙が『さおう』と読ませたいなら、別の字をいくらでも持ってこられた。『沙』を使うのは『しゃ』と読ませたいから」との見解が、その根拠だ。

 自身がアルファベットで日本語を書き起こす際、「音」が不可欠だった、という苦労が背景にある。「半ば分かっているだろう、という立場で、日本の文学史には、ルビがほとんどない。なかなか読めない字があって、逐一調べるのは時間の浪費です」

 索引についても、その少なさが「日本の本の欠点」と、かねて不満を覚えていた。著作集は索引を充実させ、最終刊には全巻通しの「総索引」をつける予定という。「何度も字引を引かずに読める。きっと未来の出版物のモデルになると思います」と語った。

 日本文学とのつきあいは1940年、ニューヨークの書店で、偶然アーサー・ウェイリー訳の『源氏物語』を手にしたところから始まった。2巻本で49セント。ちょうどナチス・ドイツ軍がフランス、イギリスなどヨーロッパ諸国を次々に攻略していた頃である。

 「『源氏』には、美のために生きている世界がありました。でも私たちが住んでいた世界は反対で、人が殺し合っていた。あれほどみにくい世界はなかった。18歳だった私は『源氏』に一種の救いを見つけ、毎晩読むようになりました」

 大戦中米海軍の通訳官を経て53年、京都大に留学。日米を行き来しながら、太宰治、三島由紀夫、安部公房、松尾芭蕉、近松門左衛門まで、古典から近代の作品を英訳した。一方、キーンさんが著した日本文学の評論や随筆集には、日本の作家が序文、解説を書いた。志賀直哉、永井荷風、川端康成といった文豪が、現役で作品を発表していた時代。客嫌いで知られた谷崎潤一郎との交友も知られる。彼らとの出会いを「運」という言葉で表現する。

 「戦後の日本文学は、元禄時代の文学に劣らないと思っています。荷風、太宰が書き、新しい人に三島、安部がいた。あんなすばらしい時代があったでしょうか。ちょうど私が現れた時期は、運がよかったのです」。さらに「どの作品も、私が最初の翻訳者だった。先駆的な仕事をできたのはうれしい。先輩がいなかったからみな優しく、出版社は喜んで発行してくれた。『古事記』から三島まで、私はあまりに野心的です」と振り返った。

 日本文学に求めてきたものは、「いろいろな角度から日本人像を見る」こと。著作集の刊行は読者にとっても、日本の文化や文学を再発見する機会になりそうだ。

 ◇日本名は「鬼怒鳴門」
 すでに報道された通り、キーンさんは東日本大震災後、日本永住を表明し、昨年9月1日に来日。国籍取得を目指している。「大勢の方から『喜んでいる』という便りをいただきました」と話すものの、法務省から許可を待つ状態が続く。

 日本名は「鬼怒鳴門(きーん・どなるど)」。日本国籍を得た場合、どんな漢字を当てようかと、以前から考えていたという。

 文字に込めた意味を問うと、「鬼怒川がきれいな名であったことと、鳴門には渦がある」と、二つの地名を挙げた。「『怒』には『ど』の音もあるので、この字を2回読んで『きぬ(ん)』と『どなるど』。それで私の名前です。戸籍上は片仮名のキーン・ドナルドですが、漢字ではこちらを使います」

 柔らかい表情、語り口とは正反対の、「鬼」「怒」の文字。「私はあまり怒ることはないですね」と笑った。=「語る」は随時掲載します。

人物略歴 Donald Keene
 1922年ニューヨーク生まれ。84年『百代の過客 日記にみる日本人』で読売文学賞、日本文学大賞、2002年『明治天皇』で毎日出版文化賞受賞。08年文化勲章。
    --「語る:ドナルド・キーンさん 著作集全15巻の刊行開始」、『毎日新聞』2012年1月12日(木)付。

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http://mainichi.jp/enta/art/news/20120112ddm014070033000c.html


ドナルド・キーン氏(Donald Keene,1922-)の恣意性は余り好きではないのですが、集積されるという意味では意味があるので。


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