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覚え書:「時流底流 押しつけられる番号と絆 小笠原みどり(ジャーナリスト)」、『毎日新聞』2012年1月28日(土)付。

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時流底流 押しつけられる番号と絆
小笠原みどり(ジャーナリスト)

 原子力発電所の連続爆発から1年もたたず、放射能被害が進行するなか、この国では大増税に電気料金の値上げと、失敗の責任をとるどころか、後始末をすべて個人に押しつける政治が加速している。これがまかり通るのは、私たちがいまだショック状態にあるからなのか、それとも破滅的な現実から目をそらしているからなのか--。
 共通番号法案もこの間に今国会へ提出される。70年代にその構想が「1億総背番号制」として現れ、住民基本台帳ネットワークに至るまで、歴代政権は反対世論の強さに実現を断念してきた。だが今、「社会保障」という新たな口実を見つけ、メディアも賛成に転じた。
 共通番号制は、私たち一人一人への付番、その番号に基づく個人データの共有、ICカードの携帯を三本柱とする。政府の「社会保障・税番号大綱」は、「国民一人ひとりの情報が生涯を通じて『タテ』につなが」り、「分野を超えて『ヨコ』につながる」とことほぐ。官庁に加え、企業も番号を扱い、個人データを束ね、交換し、利用する。
 私たちのデータは各機関で収入、学歴、病歴などに応じて振り分けられ、好ましいカテゴリーに入れば優遇され、でなければ劣った扱いを受ける。データによって格差が不可視に固定化され、差別がもっともらしく正当化されることは、海外では定説となった。
 番号制は「社会保障の充実」どころか、困窮する人に「税金泥棒」のレッテルをはり、住所のない人を今以上に職のない人に変えるだろう。カードによる識別が、権利の行使を抑制するだろう。
 大綱によれば、番号は国民と国との「新しい信頼関係を築く絆」だそうだ。昨年来、世で連呼される「絆」の政治的意味は、ここでも同じだ。破綻した現実の責任者を問わず、不安な人々の心を既存の秩序に取りこむ。
 押しつけられる「絆」は首綱と変わりない。私たちはそれも感じないふりをするのだろうか。
    --「時流底流 押しつけられる番号と絆 小笠原みどり(ジャーナリスト)」、『毎日新聞』2012年1月28日(土)付。

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