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覚え書:「発信箱:政治が消えた世界で=伊藤智永(ジュネーブ支局)」、『毎日新聞』2012年2月1日(水)付。

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発信箱:政治が消えた世界で=伊藤智永(ジュネーブ支局)

 ギリシャの映画監督、アンゲロプロス氏が先週、事故で亡くなった。映画狂だった学生時代、一番心揺さぶられたのが同監督の「旅芸人の記録」(1975年)だ。
 万事おきて破りの作りである。
 カメラがゆっくりと360度回転する長いワンショットの中で、舞台は同じ広場や街路なのに年代が変わる。登場人物たちは、同じ空間を別の時間へ移動する。
 愛憎や戦闘といった劇的な場面は映し出されず、暗闇や無人の画面を延々と見つめながら音や声で想像するしかない。
 俳優はほとんどしゃべらず、劇中劇のセリフや歌で表現する。かと思えば、役を離れて正面を向き、状況を説明し始める。
 こんなふうに激動のギリシャ現代史が描かれるから、とても難解なのに、日本では初公開の79年、「キネマ旬報」ベストテン外国映画1位に選ばれる人気だった。
 本物らしく見せるより、作り物であることを隠さず、観客の思考や想像をかき立てた方が、伝わる密度が濃いからだろう。分かりやすい方が伝わるとは限らない。
 週末、押し入れからDVDを引っ張り出した。一人きりの追悼上映会だ。
 独立と侵略、共和制、王政復古、ファシズム、占領、抵抗、解放、内戦、左派と右派の連立、軍事独裁……。ギリシャは、あらゆる政治の試みに敗れた実験場だった。これは政治への絶望の記録である。
 やがてアンゲロプロス氏は、政治映画を撮れなくなる。「今日、政治家は経済の話しかしない。私はどの立場から語ればいいのか。相手はどこに立っているのか」
 亡命者の孤独を描く作風に変わったが、世界中で世界像を戦わせる政治が消え、“たちずさんで”いるのは監督自身と見えた。非番の警官のバイクにはねられた不慮の死は、不吉に暗示的で痛ましい。
    --「発信箱:政治が消えた世界で=伊藤智永(ジュネーブ支局)」、『毎日新聞』2012年2月1日(水)付。

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http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20120201k0000m070097000c.html


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