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[覚え書]「今週の本棚:本村凌二・評 『哲学者マキァヴェッリについて』=レオ・シュトラウス著」、『毎日新聞』2012年2月26日(日)付。

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今週の本棚:本村凌二・評 『哲学者マキァヴェッリについて』=レオ・シュトラウス著

 (勁草書房・7350円)

 ◇信仰による真理を拒んだ「近代哲学」の立役者
 二十年ほど前、「新入生に薦める三冊の本」という企画があった。そのとき私がとりあげた一冊がアラン・ブルーム『アメリカン・マインドの終焉(しゅうえん)』だった。愛や道徳を深く思いやりながら、現代における知の退廃ぶりを鮮やかに描き出す思想書。読みやすい本ではないが、多くの読者に迎えられたと記憶している。

 このブルームの師が本書の著者レオ・シュトラウスにほかならない。一九七三年に逝去したシュトラウス先生の追悼論文のなかで、今日の哲学者たちが存在や知についてのみ語っているのに、先生は諸都市や紳士たちについても語った、と弟子は指摘している。

 マキァヴェッリ(一四六九~一五二七年)は『君主論』で名高いが、半年たらずで書いた同書より、数年もかけた『ディスコルシ』は四倍の長さの重厚な書である。ローマの歴史家リヴィウスの書と格闘しながら、自らと次世代が生きる時代について深い洞察をめぐらしている。シュトラウスはこれら主著二書をもっぱら解釈しながら、マキァヴェッリの真の姿に迫るのである。

 ところで、マキァヴェッリ主義という言葉から、何を思い浮かべるだろうか。政治を道徳から切り離し、ときには冷酷でもあり、目的のためには手段を選ばない権謀術数ではないだろうか。たしかに、『君主論』のなかでは、為政者にはときには冷酷であったり暴力を行使したりすることも必要だ、と語られている。このため、後世には、その道義に反する言説のみが強調され、反道徳な「悪の教師」というレッテルが一人歩きしたのだ。

 ところが、二十世紀後半以降の研究者は、マキァヴェッリのなかに、共和主義史家、国家理性論者、愛国者、多元論者、科学的政治学者などの姿を発見する。今や、「悪の教師」論は時代遅れの偏見として斥(しりぞ)けられている。

 このような潮流のなかで、シュトラウスは「悪の教師」論を真摯(しんし)に受けとめ、その意味を徹底的に追求する。このために、大多数の研究者からシュトラウスは黙殺されてきたという。

 しかしながら、シュトラウスは伝統的な偏見に回帰するだけではない。マキァヴェッリが対話したのはなによりも異教徒のローマ人であったのだ。リヴィウスが生きた時代はキリスト教出現の前夜であり、古来の異教が衰退しつつあった。それと同様に、マキァヴェッリが生きた時代はキリスト教の衰退が予感されていた。彼は、宗教にも寿命があり、キリスト教が永続することはないと確信している。

 ギリシア人もローマ人も聖書の神への信仰を知らなかった。その信仰の示唆する真理をマキァヴェッリは拒絶してしまう。もはや、ギリシア・ローマ思想を鵜呑(うの)みにするだけではない、聖書の教えに従うわけでもない思索が生まれる。それこそが「近代哲学」であり、その創始者こそがマキァヴェッリにほかならない、とシュトラウスは主張する。銘ずべきは、政治学あるいは政治哲学の祖としてだけではなく、近代哲学そのものの立役者であるというのだ。

 この新しい哲学は「いかに生きるべきか」ではなく「いかに生きているか」に注目する。だから、マキァヴェッリにとって、正義は偉大なテーマとはなりえなかった。それを是認するにしても否認するにしても、現実を冷静に見極める精神の息吹は心に留めておきたいものだ。(飯島昇藏・厚見恵一郎・村田玲訳)
    --「今週の本棚:本村凌二・評 『哲学者マキァヴェッリについて』=レオ・シュトラウス著」、『毎日新聞』2012年2月26日(日)付。

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http://mainichi.jp/enta/book/hondana/news/20120226ddm015070042000c.html


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