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覚え書:「急接近:青木保さん アジアに急増する文化施設、対抗策は?」、『毎日新聞』2012年2月25日(土)付。

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急接近:青木保さん アジアに急増する文化施設、対抗策は?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 アジア諸国が近年、ミュージアムなどの文化施設整備に力を入れている。その狙いは何か。日本は今、どんな文化政策を立てるべきなのか。各国の事情に詳しい元文化庁長官で、今年1月、国立新美術館(東京都港区)館長に就任した青木保さんに聞いた。【聞き手・岸桂子、写真・須賀川理】

 ◇日本への関心を生かせ--国立新美術館館長・青木保さん(73)
 --国立美術館勤務は初めて。内側から見えたことは。

 ◆ 開館5周年を迎えた1月21日、開催中の3展覧会を無料公開にした。すると、4000人以上が来館した。開催週平日の数倍だから、無料の効果は大きい。

 国立美術館は収益を上げてもプールできず、結局は国に召し上げられる。しかし本来は、美術愛好者を含めた一般の人々に還元すべきだ。ロンドンの大英博物館のように入場無料にすることだって考えていいはず。まずは美術館に来ていただくためのサービスを工夫し、ファンを増やす。そんな取り組みが重要だと痛感した。幸い、六本木という立地は良く、黒川紀章さんの建築も魅力的。デジタル全盛の時代だからこそ、本物に接する価値をアピールしたい。

 --近著「『文化力』の時代」(岩波書店)で、東アジア諸国(ASEAN加盟10カ国+日中韓3カ国を指す)が、美術館など文化施設の建設に力を入れていると指摘しています。その背景には何があるのですか。

 ◆ 北京では昨年、中国国家博物館がリニューアルし、巨大な劇場も完成した。ソウルにも多くの文化施設が誕生している。シンガポールには10年前、オペラハウスがつくられた。2000年以降、各国の文化事情は激変している。

 経済発展が進んだ中国では、内的にはアイデンティティーの根拠が求められ、国際社会においては地位の向上が必要となってきた。そのためには自国の文化を見直す環境の整備と同時に、文化芸術を重視する姿勢のアピールが重要になる。文化が魅力的なら、外貨の獲得にもつながる。美術館の存在感は、その意味で大きい。例えばパリからルーブル美術館がなくなれば、観光客は大分減ってしまうのではないか。

 --日本にも国立の5美術館、4博物館をはじめ、地方にも多数の文化施設があります。

 ◆ ただ、ルーブル美術館や北京と台北の故宮博物院のように、世界中の誰もが知っている存在とは言い難い。一方で、諸外国の現代日本文化に対する関心が、有史以来初めてでは、と思うほど高くなっている。アニメや漫画だけではなく、村上春樹さんを代表とする文学、ファッションや料理まで、寄せられる関心は高い。残念なのは、当の日本がこうした動きを受け止める体制になっていない。諸外国は徹底して戦略的ですよ。

 --体制がないとは?

 ◆ 21世紀の今、日本文化の新しい動向について「ここへ行けば分かる」という場所がない。アニメ・漫画文化などのすべてが分かる施設があれば、世界中の子どもたちが来ると思う。シンガポールの美術館関係者が「日本がつくらないなら、やりたいなあ」と言っていた。

 --館長は文化庁長官在任時、「国立メディア芸術総合センター」(仮称)の設立に情熱を傾けましたが、政権交代もあって実現しませんでした。

 ◆ 漫画にまでお上が口を出すつもりか、と受け止められ、不本意だった。創造活動は民間がリードするものだが、国による土台作りは必要だ。国家が見識を示し、明確な戦略をもたないと。「はこもの」とも批判されたが、今は建築自体が注目され、町を変容させる力を発揮する。金沢市の金沢21世紀美術館や、スペイン・ビルバオのグッゲンハイム美術館がいい例だ。

アートの社会性認識を

 --独立行政法人の組織が見直されました。国立美術館は、国立博物館などを運営する国立文化財機構、国立劇場などを運営する日本芸術文化振興会との統合が決まり、職員削減が予想されます。ただでさえ他国に比べ脆弱(ぜいじゃく)な体制なのに、どう戦略を立てればいいのでしょう。

 ◆ 収益向上など、経済効率の視点だけで論議されていることが問題。いったい日本の美術館や博物館、劇場は何のために存在し、どうすれば国民に豊かな鑑賞機会を提供できるのか。それを論議すべきなのに、すっぽり抜け落ちている。

 もちろん、組織側にも改善すべき点は多い。それでも、必要な作品の紹介や保護、次世代の育成は、採算を度外視して実施するのも国立の義務です。個人的には、新美術館で展覧会を開くことが、世界に羽ばたく登竜門となればいいと思う。

 --東日本大震災発生から間もなく1年。しきりに「心の支援」「文化が大切」と言われるが、予算面では真っ先に文化系が削減・凍結されるのが現実です。

 ◆ 文化と美の復興は、むしろこれからが必要になる。音楽や美術は慰めとなり、人間に力を与えてくれるもの。美術館としては、アーティストが今、何を表現するかを見守っていくことも重要だ。また、ルーブル美術館が4~9月、岩手・宮城・福島の被災3県で展覧会を開いてくれることに、「文化大国フランス」をあらためて感じた。アートの社会性と国際性を認識すべきです。

ことば 国立新美術館 2007年開館。国立西洋美術館、東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館と異なり、コレクションを持たない。美術団体の展覧会、新聞社などと共催する大型展、自主企画展を開催するほか、美術に関する情報や資料の収集、教育普及などに取り組む。

人物略歴 あおき・たもつ
 東京都生まれ。東大大学院修了、大阪大で博士号取得。大学教授などを経て07年4月~09年7月、文化庁長官。世界各地で文化人類学・文化政策学のフィールドワークに従事してきた。著書多数。
    --「急接近:青木保さん アジアに急増する文化施設、対抗策は?」、『毎日新聞』2012年2月25日(土)付。

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http://mainichi.jp/select/opinion/approach/news/20120225ddm004070109000c.html

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コメント

アジア諸国が近年、ミュージアムなどの文化施設整備に力を入れている。その狙いは何か。日本は今、どんな文化政策を立てるべきなのか

投稿: MBT ワーク | 2012年3月 2日 (金) 15時13分

MBTワーク様

書き込みありがとうございます。

先日、図書館行政に関わる人と話をする機会がありましたが、うえの文章で指摘の通り、

①コストに全てが還元される
②年度単位でしか問題を煮詰めることができない

……そのことをぼやいておりました。

「百年の計」などと妄想するつもりはないのですが、ある程度は、中長期的なビジョンをもたないと場当たり的な、そして結局はコスト還元主義の疲弊で、お金は投入したけど、内実はなにも無し!ってなってしまうのが杞憂されます。

投稿: ujikenorio | 2012年3月 6日 (火) 00時48分

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