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覚え書:「今週の本棚・本と人:『現代史のリテラシー 書物の宇宙』 著者・佐藤卓己さん」、『毎日新聞』2012年2月26日(日)付


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今週の本棚・本と人:『現代史のリテラシー 書物の宇宙』 著者・佐藤卓己さん


 (岩波書店・2415円)

 ◇「現在」の問題をえぐり出す--佐藤卓己(さとう・たくみ)さん
 『「キング」の時代』『言論統制』などの話題作を書いてきたメディア史家による書評集。日本の近現代史や思想、文化ジャンルの本を対象に、新聞や雑誌に掲載した書評が中心だが、初めの3分の1はドイツ現代史に関わる本が占める。実は、もともと社会主義やナチズムの宣伝研究が出発点だった。

 現在に直結する問題をえぐり出す切り口が鮮やかだ。例えば、収容所体験を持つユダヤ人化学者レーヴィの『溺(おぼ)れるものと救われるもの』(2000年、原著は1986年)の評では、「ガス室はなかった」とする言説の登場など「記憶の風化」に触れる。そして、インターネットを含む<情報洪水の現状は、メディアによる「でっち上げ」説が奇妙な信憑性(しんぴょうせい)を持つ背景となっている>と書く。

 近年の研究から、ナチ体制については「暗黒の暴力支配」といった単純なイメージで語りえないことが明らかになっている。「だから日本に関しても、戦前は暗黒で、言論統制で何も言えない時代だったという固定観念には、懐疑の目が向いたのだと思います」

 名著や古典の解説として執筆した長めの批評も収めた。目を引くのは、思想の科学研究会編『共同研究 転向』(全3冊、59~62年)の扱いだ。

 戦前・戦中・戦後の知識人の「転向」を幅広く分析した大著だが、よく知られている割に必ずしも評価は定まっていなかった。これを<個人の伝記を積み上げて体系化した斬新な思想研究>と位置づけたうえで、成果と限界を指摘している。

 「若い世代には『転向』と言ってもピンとこないでしょうが、戦前と戦後をトータルに捉えるうえで鍵になる概念です。さらに、ベルリンの壁崩壊後の『転向』や、今の原発事故後の状況における『転向』など、応用できる可能性も感じます」

 書名の「リテラシー」は読み書き能力を指す。「メディア史こそメディアの本質を知る方法である」と考える著者が読んで書いた、まさに面目躍如たる本だ。<文・大井浩一/写真・岩下幸一郎>
    --「今週の本棚・本と人:『現代史のリテラシー 書物の宇宙』 著者・佐藤卓己さん」、『毎日新聞』2012年2月26日(日)付。

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http://mainichi.jp/enta/book/news/20120226ddm015070019000c.html


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