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覚え書:「記者の目:連載『リアル30‘S』を取材して=水戸健一」、『毎日新聞』2012年2月7日(火)付。

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記者の目:連載「リアル30‘S」を取材して=水戸健一

 くらしナビ面で元日から掲載した連載「リアル30’s 働いてる?」の取材をした。バブル崩壊以降の「失われた20年」に青春期を過ごし、就職時に氷河期だった30代たち。その彼らを30歳の私=私大卒、04年入社=は、他の同年代の記者とともに追った。転職を繰り返す会社員、派遣切りに遭った非正規労働者……。彼らはみな「生きづらさ」を抱えていた。

 ◇「期待して裏切られた世代」
 「生きづらさ」を一言で説明するのは難しい。長くアルバイトを続け、今は無職の男性(31)は「アルバイトでいくら働いても(就職して)正社員になれるような技術は身につかなかった。不安定な生活から抜け出せない」と語った。また、会社員の女性(30)は「何かあっても社会は助けてくれない。貯金は会社が立ちゆかなくなったときのため」と話す。単なる雇用環境の厳しさだけではない閉塞(へいそく)感がある。
 30代は主に、バブル崩壊後に就職した世代。まだ景気回復を信じ、「まじめにやれば何とかなる」と思っていたが、現実は違った。「期待して裏切られた世代」と、関西学院大の鈴木謙介准教授(社会学)は言う。また彼らは社会の厳しさを割り切っている20代に比べ、「自分の努力が足りなかったのでは」と自分への責めも引きずっていた。
 連載3回目で紹介した男性(31)が特に印象的だった。高卒で働き始め、アルバイトから派遣労働者へ。しかし、派遣先の自動車工場は08年のリーマン・ショックの影響で業績が悪化し、派遣切りされた。現在は生活保護を受けながら、就活している。
 男性は「(高校卒業時に)落ちても落ちても面接を受け続け、小さな会社でも正社員になればよかった」と悔やむ。高校卒業当時はアルバイトで学費をため、専門学校に入るのが正社員への近道と考えていた。だが、ファミレスとコンビニで1日14時間働いても貯金は増えない。派遣労働者になったが、米国発の不況で失業するとは予想もしなかったという。男性はこれまでの選択を「間違えていたみたい」と伏し目がちに語った。
 総務省の労働力調査によると、11年1月の25~34歳の完全失業率は6.4%。就職氷河期が始まる直前の92年1月の数値は、2.4%だった。25~34歳の非正規労働の人数も、20年前の91年は約10人に1人(10.9%)だったが、10年は約4人に1人(25.9%)まで増えている。
 長引く不況下では、年齢を重ねるほど非正規労働からの脱出が難しい。新卒時に進路を誤ると、やり直しがきかない。無力感にとらわれ、貯金など自己防衛の意識が強くなっても、当然だろう。私は男性の話にうなずきながら、「あまり自分を責めないで」と思わざるを得なかった。
 連載で毎日新聞にメールや手紙で寄せられた反響も、30代からが多かった。ツイッター(@real30s)でも紹介すると、こちらでも4000人以上の人が読んでくれた。記事を自分に引きつけ、「努力しても報われない」「誰もが幸せになれた時代が特殊だった」と書き込んでいた。私も「選択が違っていたら、自分もどうなっていたか分からない」と書き込んだ。
 記事にはならなかったが、大手製紙会社の元社員の男性(30)は、億単位の予算を扱うプレッシャーに耐えきれず1年で退職。取材当時はスーパーでアルバイトをしていた。 彼は最初は「僕は生産性のない人間。何も考えずに体を動かしているだけ」と自嘲気味だった。だが、趣味の話になると表情が明るくなった。バイト勤務は朝5時から正午まで。午後は毎日のように美術館を回り、鑑賞を楽しむ。「以前は満員電車の通勤がどうしようもなく嫌で、朝も起きられなかった。今、会社勤めの時よりも早く起きられるのが不思議」。手の届く範囲で幸せを求め、心のバランスを保とうとしている。

 ◇働くこと以外にモデルない社会
 労働を生きがいにできた時代と異なり、今は働くことで充足感を得にくい。働くこととは別に充足感を模索しているのに、はた目には「自分勝手」「努力が足りない」と映る。だが本人たちも、「働けばすべてが得られる」以外のモデルが示されていないから、悩んでいる。
 「別の選択をしていたら」とか、「今後は選択を間違えられない」という不安感とも緊張感ともいえない感覚。それこそが、30代の抱える生きづらさの正体だと思う。年配世代の多くは、仕事が定まらない30代の若者にいら立ちを感じている。だが、彼らにこう尋ねてみたい。
 「今、この社会で30歳として働いてみたいですか。昔と同じ生き方で幸せになれるでしょうか」
    --「記者の目:連載『リアル30‘S』を取材して=水戸健一」、『毎日新聞』2012年2月7日(火)付。

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http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20120207k0000m070122000c.html

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