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覚え書:「地方発 廃校は知と遊の隠れ資産」、『毎日新聞』2012年1月31日(火)付。

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地方発 廃校は知と遊の隠れ資産
小山内誠 NPO法人「あおもりNPOサポートセンター」副理事長
コミュニティーの形成目指して

 「あなたたちがこの廃校を使ってくれて、たくさんの人が来るようになった。ありがとう」。地域の古老からそう言われ、ウルッとなった。
 青森市の中心部から車で20分ほどの中山間地の集落、青森市王余魚沢(かれいざわ)地区にある王余魚沢小学校が廃校になっていると聞いたのが2008年。青森市当局に掛け合ったら、意外と簡単に借用許可が出た。ところが、町内会からストップがかかった。「NPOとはどんなことをする組織なのか」「廃校で何をやろうとしているのか」「地域住民に不利益となるようなことはないのか」
 急きょ召集された住民集会で、たくさんの質問を浴びせられた。一つ一つ丁寧に答え、不安のないことを示した。地縁の濃いムラ社会に、異物が入ってくることへの懸念は、私自身もわかる。しかし、ここは私たちのミッションを理解してもらうために、時間をかけなければという思いだった。
 初年度、助成財団「トヨタ財団」からの支援を受けて、20件ほどのプログラムを展開した。工芸系の講座や展示会、食べ物系の講座、ジャズやフォークなどのコンサートだ。町内会の回覧チラシに月々のプラグラムを入れて、お知らせした。だが、すべて無料にもかかわらず地域住民の参加はほとんどなく、都市部からの参加者でプログラムは推移していった。
 2年目に、町内会の婦人部から相談があった。「NPOさんで面白いことやっているようだけど、町内のイベントに知恵をかしてほしい」というものだった。小躍りした。地域の子供たち向けの夏休みイベント「夕涼み会」に、アイデアを提供し、私たちも参加した。ちょっと地域とつながったような気がした。
 3年目に「かれいざわアートICHIBA」というイベントを開催した。フリーマーケットとアートイベントをコラボさせたようなプログラムだったが、その時に来た地域の古老に言われたのが「ありがとう」の言葉だった。
 4年目の今年度、旧校舎と別棟にカフェをオープンさせ、6500人ほどの来場者を数えた。( http://www.kareizawa-club.com )
 小学校は、地域住民にとって最も思いの深い知と遊の空間であろう。廃校になって朽ちていく寸前に、再生する手助けをしようというミッションを、地域はうっすらと理解し始めているように思う。古い校舎は何も語らないが、ここに積み重なっている歴史が、私たちに不足している"縁”のありがたさを感じさせてくれる。効率優先の現代、自分自身の"時間”を取り戻すための空間として、廃校を抱えるコミュニティーに注目してみてもいいのではないか。

ことば 廃校活用
少子化や過疎化に伴い、1992年から08年までの17年間で計4533校の公立小・中学校が廃校になった。青森県は北海道、東京都、新潟県に次ぐ全国第4位の242校。08年度の都市農山漁村交流活性化機構の集計によると、全国の廃校舎の66%が活用され、廃校活用の運営主体の60%が地方公共団体で、NPO法人による運営は5%ほど。昨今、廃校サミットや廃校フォーラムなどの開催を通して、廃校活用ネットワークがスタート。昨年12月には第1回全国廃校活用フォーラムが旧王余魚沢小学校体育館で開かれた。

おさない・まこと 1947年青森市生まれ。地域誌の編集やイベント企画などの業務を経て、96年に青森県第1号のNPO法人を設立。
    --「地方発 廃校は知と遊の隠れ資産」、『毎日新聞』2012年1月31日(火)付。

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