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覚え書:「東日本大震災:暮らしどうなる? 避難所、仮設での暴力防げ」、『毎日新聞』2012年3月1日(木)付。

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東日本大震災:暮らしどうなる? 避難所、仮設での暴力防げ

女性、子どもに被害多く 支援団体、対策作りへ実態調査
 東日本大震災に関連して起きた女性や子どもたちへの暴力や性暴力が、相談支援を続けてきた団体によって少しずつ明らかになっている。支援団体は被害実態をまとめ避難所の運営指針や仮設住宅入居後の訪問支援などに生かそうと、情報を集めている。【稲田佳代】

 全国女性相談研究会(東京都豊島区)は、被災地や首都圏の避難所などで女性の相談を受けてきた。会のメンバーで、ふだんは配偶者間暴力(ドメスティックバイオレンス=DV)被害者の支援などに取り組む吉祥(よしざき)真佐緒さん(42)は、数々の被害を見聞きした。
 福島県内のある避難所では、夜間に30~60代の女性が襲われ性的被害を受ける事件が3件起きていたという。若い女性から「私も襲われるかもしれない。怖い」と打ち明けられ知った。気配や物音で、3人が被害にあったことは避難所の公然の秘密のようになっていた。
 加害者は同じ避難所の中年の男とみられ、周囲も感づいていた。男は深酒をして酔っていることが多かった。吉祥さんは、夜間常駐する自治体職員に相談したが「なんとなく分かっているけど、悲鳴が出ず被害の届け出もないので男女の営みに口出しできないんです」と言われた。
 その後に襲われた別の中年女性は「やめて」と大声を上げたため、110番通報で警察が来た。しかし女性は「この年で襲われたなんて恥ずかしい。家族に迷惑がかかる」と被害届を出さず、警察の事情聴取から帰ってきた男は、同じ避難所で暮らし続けた。解決策が見いだせず、吉祥さんが男に直接抗議したところ、男は当てつけのようにズボンを脱ぎ下半身を見せた。
 女性たちが声を上げないことについて、吉祥さんは「被害者や加害者、警察官、自治体職員らが全員顔見知りの中で、丸く収めたいという思いが働くのかもしれない」と推測する。
 酒に酔った男性同士が避難所でケンカしているのも目撃した。避難者の女性に尋ねると「毎日です」。暴力を見せることも虐待の一種だ。ケンカの様子を子どもも見ていた。
 女児からは、トイレに男性がついてくる、更衣室をのぞかれる、ひわいな言葉をかけられるなどの訴えが多かった。ボランティアの男性から「チューして」と迫られた子もいる。

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 昨夏までに多くの被災者が仮設住宅に移った。全国女性相談研究会が仮設住宅を巡回するようになると、10月ごろから相談内容にDVが目立ってきた。「女性相談」と掲げると人目を気にして相談できない人もいるため、「女性限定のハンドマッサージ」と呼び込み、女性たちの声に耳を傾けている。
 吉祥さんが仮設住宅に着いた途端、一室から「てめえこのやろう!」という怒鳴り声と大きな音がしたこともあった。妻が暴力を振るわれているらしく、その家の子どもはおどおどしていたという。
 被災地には、暴力を生みやすい環境要因が増えた。大切な人や仕事を失った喪失感からのアルコールやギャンブルへの依存、夫婦が一日中顔を突き合わせていなければならない狭い仮設住宅、放射能の問題と子育てに対する夫婦の認識の相違、義理の親との望まない同居……。
 吉祥さんによると特に多いのは、震災で失業した夫が義援金や東京電力の賠償金の使い道を勝手に決めてしまうケース。妻が注意すると逆上し、暴れる。生活費を使い込んで渡さないことも経済的なDVに当たる。だが妻のほうが「仕方がない」と我慢したり、「あなたがしっかりしなきゃ」と周囲から励まされることが多いという。
 吉祥さんは女性に、頼れる相談先を1カ所は確保しておくことを勧める。誰かに話せば、「何か分からないけれど生きづらさを感じている女性が、『これはDVかもしれない』と気がつく第一歩になる」からだ。

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 これまで、大震災に関連した女性と子どもへの暴力について、公的な調査は行われていない。
 性暴力問題などに取り組む被害者や看護師らでつくる「災害時の性暴力・DV防止ネットワーク」は、震災から半年間に、被災3県で少なくとも14件の暴力被害を把握している。報道や被災地の医療関係者からの情報、メンバーが見聞きした情報をまとめた。
 地震による停電中に部屋へ侵入してきた男に女性が襲われた事件や、中学校に寝泊まりしていた女性ボランティアが襲われた事件など強姦(ごうかん)・強姦未遂が4件、強制わいせつが4件、DV2件などだ。DVの1件は、宮城県石巻市の仮設住宅で起きた。男が酒に酔った内縁の妻の顔を殴り、両手両足を縛って頭に布団をかぶせて死亡させたとして逮捕致死罪で起訴された。
 代表の山本潤さんは「平時でもDVや性暴力の被害は訴えにくい。災害時はなおさら沈黙してしまう。被災者から『東北は男尊女卑の文化が根強いから仕方がない』と、あきらめにも似た言葉も聞いた。地域性に配慮した実態把握や支援をしたり、ふだんから暴力防止教育を行ったりすることが必要」と訴える。
 被災地の女性支援に取り組む団体でつくる「東日本大震災女性支援ネットワーク」は3月末まで、被害情報をアンケートで集めている。隠れた被害実態をまとめ、現在、国や地域で策定が進む防災計画や復興計画に反映させようとする取り組みだ。信頼できるデータがあれば、女性が暮らしやすい避難所作りや、他人の目が届かない仮設住宅の支援などの必要性を、行政や市民に納得してもらいやすくなる。
 「被害者本人か、直接被害者から話を聞いた人」の協力を呼び掛けている。情報を提供できる人は同ネットワーク調査チーム(電話03・3830・5285)まで。周囲に知られたくない人には郵送方法などを配慮する。
    --「東日本大震災:暮らしどうなる? 避難所、仮設での暴力防げ」、『毎日新聞』2012年3月1日(木)付。

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http://mainichi.jp/select/weathernews/archive/news/2012/03/01/20120301ddm013040021000c.html


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