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書評:若松英輔『井筒俊彦--叡知の哲学』慶應義塾大学出版会、2011年。

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対話の達人・井筒俊彦のはじめての本格的評伝
若松英輔『井筒俊彦--叡知の哲学』慶應義塾大学出版会、2011年。


世界的イスラム学者・言語哲学者として知られながら、国内ではほとんど真正面から論じられることのなかった大碩学のひとりは、間違いなく井筒俊彦氏だろう。

ギリシャ哲学、言語学、ユングから老荘、仏教、そしてイスラームと神秘主義……。関連するキーワードをあげてもきりがないほどだ。数十カ国語に通じ、その探究の射程も深広である。それ故か、まとまな「井筒研究」はこれまでなかったし、解説しようにも解説できなかったのが知的世界の現状ではなかっただろうか。

本書はその著作と生涯を丹念に論じた待望の一冊であり、氏の思索の軌跡を生き生きと描き出している。

天才ともいうべき井筒俊彦にはどのようなイメージがあるのだろうかーー。
そびえ立つ孤高の霊峰のような姿は、どこか神秘のベールにつつまれたような感もあり、言語と綿密に対峙したその研究スタイルからは、ひととの交わりの淡い・近寄りがたい印象があるだろう。しかし本書はそうした先入見を払拭してくれる。

井筒は様々なひとびとと交わった対話の人だった。西田幾多郎、大川周明、吉満義彦、ジャック・デリダ……。本書は一人の哲学者として様々な人物と交わり言葉を交わしている。そして生きた人間だけでなく、過去の言葉や資料とも対話をしているのである。

ひととあって言葉を交わし、書物と言葉を交わし、歴史と対話をしているのだ。語ることが記すことであり、記すされた言葉を読むこと自体が語ることでもあるのだろう。

さて初めての井筒伝を著した若松氏は、いわゆる職業「学者」でも「文筆家」でもない。生業をもちビジネスに打ち込む一方で、研究・執筆にも取り組んでいるという。ユニークな経歴を持つ著者の意欲作は、本格的批評家の誕生を予見させるものである。

若松氏は2年前に『読むと書く―井筒俊彦エッセイ集』(慶應義塾大学出版会)を編んでいる。本書と併せて読むことをおすすめする。氏の思索の深化は本年3月に出版された『魂にふれる 大震災と、生きている死者』(トランスビュー)でもいかんなく発揮されている。

蛇足ながら、筆者は、学生時代に観覧した井筒俊彦展(慶應三田図書館にて手記やノートの展示)の記憶を鮮やかに思い出した。びっちりと数カ国語で記されたノートやカードにワクワクしたことが懐かしい。本書を読了後、あの日経験した昂奮がふつふつとわき上がってきた。

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