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書評:タミム・アンサーリー(小沢千重子訳)『イスラームから見た「世界史」』紀伊國屋書店、2011年。

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もっとも新しい世界宗教としてのイスラームの歴史と生活。平板な認識を更新する一書

タミム・アンサーリー(小沢千重子訳)『イスラームから見た「世界史」』紀伊國屋書店、2011年。

 日本と西洋社会に共通している問題とは何か。それはその両者の間に広く・深く息づくイスラーム世界に対する認識だ。本書は、南アジアからトルコ・エジプトに至るイスラーム世界を、その勃興の歴史と西洋社会との交渉史をひとつの「物語」として描写する一冊だ。筆者は、欧米中心の歴史認識に由来する「中東」という名称を避け、それら舞台の地域を「ミドルワールド」と呼ぶ。まさに、地中海世界と中華世界の中間に位置する世界だ。
 著者はアフガニスタンで生まれ育ったイスラーム教徒、現在はサンフランシスコで作家として生活しながら、アメリカの世界史教科書の執筆者としても活躍しているという。
 世界史で思い出したついでに、日本で教授される高等学校の世界史でも、筆者は、ムハンマド以後のイスラーム世界が、西洋社会に比べると、「大都市の発展」、「にぎわう市場」、そして「寛容な政策」と多彩な「文化的活動」の社会であると習ったと記憶する。このキーワードは、同時代の世界文明と比べても最も挑発的かつ挑戦的に躍動したのがイスラームだったのではないだろうか、ということだ。
 イスラームが躍動するのは、そもそもそれが最も新しい世界宗教だったからでもある。その歩みは、たえず西洋や東洋……説くに騎馬民族との挑戦と応答のなかで、展開していったことをどこかで僕達は失念したのではないか……そんなことを考えさせられた。平板なイメージと、ためにするように脚色されたイスラーム感を小気味よく一新してくれる。
 CNNの報道が世界のスタンダードと錯覚するのが現在の日本人だろう。本書は日本人の歴史観を多面的なものへとスライドさせるうえで刺激に満ちた一冊である。

 最後に著者の史観についてひとつだけ紹介しておこう。著者は、個人と社会の関係について、キリスト教との対比から、キリスト教は基本的に個々人の救済にかかわるものであり、イスラームは共同体形成に重きを置くという視座をはっきりさせている。これは教科書的な記述といってもよい。しかしそこに筆者は留まらない。
 話題は昨年春の「アラブの春」まで及ぶ。しかし筆者は聖戦と暴力の関係についても教条的な議論は新調に退ける。このバランス感覚にはおどろくばかりである。
 想像力を少しだけたくましくしよう。
 筆者はイデオロギーにも慣習にも本来的には無縁であったバザールの光景を幼い頃、アフガニスタンで眺めていたのかも知れない。生きた人間のまなざしから人間の営為を振り返る素晴らしい一冊だ。


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