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書評:リン・ハント(松浦義弘訳)『人権を創造する』岩波書店、2011年。

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リン・ハント(松浦義弘訳)『人権を創造する』岩波書店、2011年
「人権という力強い考えの誕生と発展を描いた、すばらしい歴史書」


 「人権という力強い考えの誕生と発展を描いた、すばらしい歴史書」。
この言葉は、本書に推薦の辞を寄せたアマルティア・センの言葉で、これが帯に印刷されている。しかし、この簡潔なひとことが本書の概要を物語っている。
 人間の平等を謳うマニフェストは、西洋社会においては、「アメリカ独立宣言」と「フランス人権宣言」がそのさきがけとなろう。この両者に共通しているのはともに18世紀の事件だったということである。
 著者のリン・ハント女史(Lynn Avery Hunt、1945-)は、アメリカ歴史学会の会長も歴任したカリフォルニア大教授で、専門はフランス革命だ。リンは、当時の小説から政治的パンフレットにいたるまで膨大な資料を駆使しながら、ひとびとの心と身体に生じた巨大な変化……これを「共感」(empathy)と指摘する……を浮かび上がらせる。
 そう、共感が時代を変えていくのだ。
 共感を立ち上がらせるきっかけになるは、読み手を「泣かせる」小説が登場したという指摘、そして……これは女性の歴史家ならではといえばいいのだろうか……、男性が見落としがちな些細な出来事まで瑞々しく甦らせる筆致に驚いてしまう。
 ハントによれば、「共感」という土壌が成立してこそ「平等」への心構えが可能になる。そしてその土壌から「人権」の概念も誕生する。
 思うに、人権とは、イデアのように先験的に実在するものではないのだろう。本書を読むと、具体的な歴史的プロセスのなかで徐々に「作り上げられた」ものだということがよくわかる。
 勿論、人権の天賦賦与的な側面を全否定するつもりはない。しかしその「あたりまえ」が現実化するためには、それを力強い考え方へと「たらしめよう」とする努力と展開があったことを忘れてはならないし、単純に「権利への闘争」とも片づけたくもない。それは完成された概念や価値観というよりも、むしろ、その恩恵を浴び現代に生きる私たち一人一人が今後も生活の中で発展させていくべきものなのではないだろうか。
 翻ってみれば昨今の時世、コスト計算に導き出された数値を錦の御旗としたり、実際はそうではないのに偏った報道によって制限しようという眼差しが露わになりつつある。本書はそうした昨今の転倒した人権への眼差しをもういちど正視眼にしてくれる一冊ではないだろうか。

以下はUCLAのリン・ハント女史を紹介したページ。

http://www.history.ucla.edu/people/faculty?lid=535

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