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覚え書:「今週の本棚:五味文彦・評 『被災地の博物館に聞く』=国立歴史民俗博物館・編」、『毎日新聞』2012年04月08日(日)付。

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今週の本棚:五味文彦・評 『被災地の博物館に聞く』=国立歴史民俗博物館・編
 (吉川弘文館・2625円)

 ◇歴史的資料の救出を通じた地域復興の試み
 戦火や失火により博物館の被災はこれまでにもあったが、今回の東日本大震災のように津波によって博物館が壊滅的被害を蒙(こうむ)ることはなかった。博物館を生み、発展してきた地域もまた壊滅的な被害を受けるという状況のなか、博物館はどのように動いてきたのか。
 その悲痛な叫びが本書から聞こえてくるとともに、それにもめげずに模索を続ける試みが見えてくる。本書は昨年七月三十日に国立歴史民俗博物館で開催された特別集会の記録である。まだ被災して四ケ月後ということもあり、何とかしなければならない、という切迫感と、復活に向けての熱い思いとが、本書から聞こえ、見えてくる。
 最初の報告者は、陸前高田市の資料救出活動に中心的にあたった岩手県立博物館の赤沼英男氏によるレスキュー活動の報告である。
 陸前高田といえば、高田松原の唯一残った一本松で知られるが、この地にあった多くの歴史関係資料も多大な被災を受け、それらをいかに救出し、保存・保護してきたのか、その経過を詳細に語っている。
 資料といっても多様だ。発掘遺物や文書・民具のみならず、自然史関係の資料もある。特に貝や蝶(ちょう)などの自然史関係資料をどう保存したらよいのか、模索が続いているという。
 その陸前高田で被災にあった、海と貝のミュージアムと市立博物館からは、熊谷賢・砂田比左男両氏が、被災と救出の実情を報告しているが、実はこれら博物館職員のほとんどが津波にのまれてしまい、僅(わず)かに残された人々により必死の努力が続いている。 丹念に洗って救出してゆく。海水に浸かっただけならば、それほど問題はないが、ヘドロを始め様々な汚染があり、時間が経(た)つと有害なカビまで発生しているので、気が抜けない。散々に痛めつけられ、希少価値がない資料でも、それを続けてゆくのは、それらがこれまで地域とともにあり、地域の歴史を物語っているからである。これら資料の保存と展示を通じて地域の真の復興に向けて邁進(まいしん)してゆくという。
 宮城県の博物館からの報告は、高倉敏明・菅野正道・加藤幸治の三氏から、それぞれ被害の実態、歴史資料の保全のあり方、文化財レスキューのための連携など、被災の経験に照らし、これまで文化財の防災計画がなおざりにされてきたことを指摘しつつ、今後のあり方を訴えている。
 こうした岩手・宮城県の博物館とはやや違った角度から報告を行ったのが、福島県歴史資料館の本間宏氏である。福島県では災害以前に歴史資料保存ネットワークを構築していたことから、それが機能するはずであったのが、予想もしない放射能汚染という事態に遭遇して、動きが遅くなってしまった。いまだに被災の最中にあるわけで、「いま歴史資料の救出なんかをやっていていいのか」という葛藤さえ生まれたと苦悩する。
 そうした多くの葛藤を乗り越え、真の復興を求めて活動している関係者の声をよく聞き、これからの活動に何が必要なのか、常に考えてゆくことが求められている。
 被災を直接に受けた人々、被災者に直面して復興に取り組む人々、被災を間接的に見た人々、それぞれこの震災に身をもって関わることからしか、苦境を乗り越えてゆくことはできない。
    --「今週の本棚:五味文彦・評 『被災地の博物館に聞く』=国立歴史民俗博物館・編」、『毎日新聞』2012年04月08日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120408ddm015070014000c.html


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