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「記者の目:米軍普天間飛行場の騒音問題=大治朋子」、『毎日新聞』2012年04月13日(金)付。

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記者の目:米軍普天間飛行場の騒音問題=大治朋子


 ◇教室の「日常」に目を向けよ
 軍用機が上空を日常的に旋回する沖縄県・米軍普天間飛行場。米軍再編で移設問題が注目を集めているが、飛行場に隣接する宜野湾市立普天間第二小の騒音実態は、詳しくは知られていない。琉球大工学部の渡嘉敷健准教授(環境工学・騒音)が教室内の騒音測定をした結果、米軍機の離着陸に伴う騒音は最大100デシベル以上に達した。電車が通過中の高架下の騒音に匹敵するレベルだ。2〜3月にかけて普天間第二小の「日常」に密着取材した。実感したのは、騒音問題の改善には、まず米軍基地が集中する沖縄ならではの特殊な騒音状況を的確に反映する測定方法の検討や児童・生徒らの健康被害の実態把握が必要だということだ。
 ◇授業中約4分に1回飛ぶ米軍機
 空を切り裂く軍用機の爆音は容赦なく校内に響き渡る。普天間第二小の3月1日の4時限目。45分間の授業中、米軍機は11回、約4分に1回の割合で飛んだ。最も騒音の値が高いピーク時の平均は約84デシベルで、地下鉄の電車内の騒音を上回る値だ。しかし、文部科学省が定める一般的な検査基準である等価騒音レベル(一定時間内の騒音の平均値)に沿って45分間の平均にしてみると66.7デシベルで、「やや騒々しい事務所」のレベルになる。
 米環境保護局が示した言葉の理解と騒音レベルの関係性によれば、理解度を95%以上にするには、最大騒音レベルを65デシベル以下に抑える必要がある。75デシベル以上の騒音の中では、全く言葉が聞き取れなくなるという。
 米軍機が1回飛ぶと、騒音は約30秒間続く。この間、授業は中断され、会話は成立しない。4分に1度の割合で飛んだ場合、断ち切られた会話が再開し集中力を取り戻したと思ったら、新たな米軍機が飛んでくるという繰り返しだ。
 文科省は「学校環境衛生管理マニュアル」で教諭の平均的な声の大きさを約65デシベルと設定し、一定時間内の教室の騒音の平均値を示す等価騒音レベルは窓を閉めた状態で50デシベル以下、開けた場合で55デシベル以下が「望ましい」と定めている。児童らが授業を正確に聞き取るには、教諭の声の大きさと教室の騒音の差が「少なくとも15デシベル必要」とする世界保健機関(WHO)の環境騒音ガイドライン(99年)に基づいている。しかし、WHOは教諭の声を約50デシベルと仮定し、授業中の騒音の基準値を35デシベルにしている。文科省の値はこれより15デシベル高い。
 文科省学校健康教育課によると、学校環境衛生管理マニュアルは等価騒音レベルを一般的な基準としているが、特殊な騒音源がある場合はピーク時の最大騒音レベルを重視するなど別の方法をとることも可能だという。同課調査官は「学校の衛生管理を担う学校薬剤師や音響の専門家と相談し、適切な測定方法を検討してほしい」と話している。米軍機が頻繁に飛ぶ特殊な環境では、平均値よりも最大値や騒音変動をみる方が状況を的確に捉えることができるはずだ。
 沖縄では今後、全校で教室の騒音を測定する。そこでは文科省が定める平均値の計測に加え、基地に囲まれた学校の日常を適切に反映する独自の測定方法も必要となるだろう。実態をより鮮明に映し出すデータを日本政府や米国に提示しなければ、具体的な騒音軽減にはつながらない。平均値を取るだけでは、現実を反映しない数字が独り歩きし、騒音状況が軽視される事態にもつながりかねない。
 ◇子供たちの心身に与える影響も
 もう一つ、取材で実感したのは、騒音の常態化が子供たちの心身に与える影響だ。爆音を「うるさい」と訴える子供がいる一方、「慣れた」という声も少なくない。普天間飛行場や米軍嘉手納基地(沖縄県嘉手納町など)の周辺住民を対象にした調査(95〜98年)に関わった松井利仁・京大准教授(環境衛生学)は「騒音に注意を向けるとストレスで体に負荷がかかるので、意識的か無意識のうちに、騒音から注意を外すことがある」と話す。報告書でも、慢性的に航空機騒音にさらされている子供たちは「音に同調せず、注意から外し、感受性を低くする対応策を身につける」という米国の大学教授の見解が紹介されている。
 「慣れた」という子供たちも、じっくり話を聞いたり、作文を書くと、複雑な思いを表現することがある。6年生女児は作文で「騒音に慣れたくない。普通の静かな生活に慣れたい」と書いていた。
 騒音は自律神経系や内分泌系、循環器系、消化器系に影響を及ぼす恐れがあることは、医学的にも広く認識されている。教育行政の担当者は、子供や教諭らへの聞き取りなどを通じ、埋もれがちな声を拾い上げ、普天間飛行場周辺の子供たちが置かれている騒音問題の正確な実態把握に努め、その上で、適切な防護策を講じるべきだ。(外信部)

    --「記者の目:米軍普天間飛行場の騒音問題=大治朋子」、『毎日新聞』2012年04月13日(金)付。

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http://mainichi.jp/opinion/news/20120413k0000m070137000c.html

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