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覚え書:「今週の本棚:養老孟司・評 『生物多様性を考える』=池田清彦・著」、『毎日新聞』2012年04月22日(日)付。

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今週の本棚:養老孟司・評 『生物多様性を考える』=池田清彦・著

 (中公選書・1365円)

 ◇きわめて論理的な科学者の手になる「保全」論

 一昨年は国連の定める国際生物多様性年ということで、さまざまな社会的な動きがあった。要するに政府から関連予算が出たのだと思う。でもそれが過ぎたら静かなもの。そうかといって、生物多様性のいわゆる危機は深刻化こそすれ、良くなったわけではない。
 本書は著者の年来の持論をまとめたもので、本格的な生物多様性に関する議論である。たいへんわかりやすく書かれているが、従来の生物学をそのまま「堅く」理解している人は、受け入れにくいかもしれない。たとえば「種多様性」は、遺伝的多様性、生態系多様性とともに、生物多様性の重要な三本柱の一つだが、種の定義自体はかなり著者特有のものである。
 それならそれは誤りかというなら、そういうわけではない。科学は多数決ではない。著者の種の定義は、わかっている人なら、まあそういうことだ、と認めるような種類のものである。つまり現在の状況では、これが記述可能な限度だ、というほどのことである。
 科学はしばしば厳密だと思われている。最終の結果はそう見えるが、科学をやっているのは人間である。それなら「いい加減」に決まっている。だから厳密な定義に達する前に「まあ、こんなもの」というイメージみたいなものが当然ある。それがどのていどホンモノに近いかで、じつは科学者の善し悪(あ)しが決まる。私はそう思っている。
 生物多様性という「問題」自体もその一例である。そんなもの、まったくわからないという人も多いはずである。だから著者は右の「三つの柱」のそれぞれを、自己のデータを含めて、まずていねいにきちんと解説する。この部分が本書の半分を占める。
 残りの約半分が「生物多様性の保全とは何か」という議論である。最後の十分の一が「生物多様性と国際政治」で、これは「保全」の議論の延長と考えてもいい。この「保全」の部分を私は傾聴に値すると考える。でも著者の環境に関する発言は、社会的になかなか受け入れられない。そういう常識は著者にもあるらしく、なぜ受け入れられないかと嘆く著者に対して、奥さんが「あんたがいうからよ」といったという。
 そもそも生物多様性という言葉は政治的な概念として作られた。もともとは「生物学的多様性」つまりバイオロジカル・ダイヴァーシティという術語だったのを、「ロジカル」つまり「論理的」「学問的」という部分を取り去って作った用語である。それは「保全」問題だからで、お金や利害に直接関係する社会的な問題を含み、それならまさに政治になってしまうためである。保全に対する著者の主張は、ここで紹介するより、実際に読んでいただくべきだと思う。つまりすでに書物になっている以上、こうした主張はまずオリジナルな形で読まれるべきで、「あの人がああいっている」というふうに第三者が伝えるべきものではない。私はそう信じるからである。
 科学者は論理的だと思っている人がいる。科学者自身にもいるのではないかと思う。でも科学は論理的でなければならないが、科学者が同じく論理的だなどという保証はない。かりに人間の論理性が一定だとしたら、科学者は仕事にそれをつぎ込んでしまうので、かえって非論理的かもしれない。私はそう疑う。科学者が保全をいうと変になるのは、そのためか。その意味では、著者は科学者としては、むしろきわめて論理的だというべきであろう。
    --「今週の本棚:養老孟司・評 『生物多様性を考える』=池田清彦・著」、『毎日新聞』2012年04月22日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120422ddm015070013000c.html

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