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覚え書:「今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子--高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

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今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子--高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著
 (文藝春秋・1785円)


 ◇創造を信じる子と親と社会のファンタジー
 高校生の数学オリンピックは日本でも有名になったが、理科の分野でも同じような行事がある。アメリカではサイエンス・フェアと言われていて、郡や州単位のものから、国際的なレベルのものまで毎年盛んに行われているらしい。まるでスポーツ大会のように、中高生がそれぞれの科学研究を発表して、競い合う。ここで地元大学進学の奨学金を得ることもできる。
 このサイエンス・フェアの最高峰がインテル国際学生科学フェア(ISEF)である。毎年五〇か国以上の国々から、一五〇〇人以上の高校生が集まり、世界から予選を勝ち抜いた理科の自由研究を発表する。賞金や各地の大学奨学金は総額四百万ドルを超え、熾烈(しれつ)な戦いが五日間繰り広げられる。本書はインテルのフェアに参加した子どもたちの記録である。
 そういえば中学校の夏休みの自由研究で、友達の理科工作が東京都とかの賞をもらっていたなあ、とぼんやり思い出すが、現在の国際学生科学サイエンス・フェアの内容の高さは夏休みの宿題とは隔絶したレベルにある。
 ナノテクノロジーの研究で、すでに五つの特許を取って会社を経営する高校生や、核融合炉を作る高校生。いとこの自閉症の子のために言語教育プログラムを開発した高校生など、サイエンス・フェアで発表される研究は、大学や博士課程の研究を上回るものが多い、という。少なくとも創造性については、はるかに上を行くこと間違いなしである。
 この本の良さは、一つには、著者の言うとおり、子どもたちの才能と真っ直(す)ぐな努力が伝わってくることである。著者のジュディ・ダットンはこう書いている。
 「子供のような彼らとその能力について抱いていたわたしの考えは根本から覆され、八歳だろうが八十歳だろうが、全身全霊で打ち込めば、どのようなことも乗りきれると思い知らされたのだった。」
 国際比較の学力テストなどではアメリカの科学教育のレベルは高くない。将来の凋落(ちょうらく)をオバマ大統領も憂慮しているというが、ダットンは明るい希望を見たと言う。
 でもそれだけではない。優秀な科学エリートたちだけの物語ではないところに、むしろこの本の感動がある。そういう突出した子を見守る人たちがいること、社会に受け入れる鷹揚(おうよう)さがあることにも胸打たれるものがある。
今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子?高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著
毎日新聞 2012年05月13日 東京朝刊


 インタビューされた子どもたちは、社会的経済的に恵まれた天才秀才ばかりではない。障害のある子、変り者の子、極貧のネイティブアメリカンの子も、矯正施設にいる子どもたちも、サイエンス・フェアに出場している。高校に行かずに家庭で教育を受けている子もいる。
 サイエンス・フェアに参加するためには、確かに子どもに才能は必要である。でも最初から子どもが輝いているわけではないし、能力のバランスが良いわけでもない。子どもの突飛な発想を後押しし、励まし、指導し、称賛し、一緒に楽しむ大人の存在は大きい。しかも徹底して良いところだけ見てサポーティブに評価する。自分の子どもが、核融合の実験を自宅で始めても、見守っていられる親は多いとは思えない。子どもが自閉症児の教育法を作っても、本気で試す人は多いと思えない。特に日本人にはなかなかできない技だ。
 人を信じることの大切さが伝わってくる、ファンタジーみたいに気分の良い本なのである。(横山啓明訳)
    --「今週の本棚:小西聖子・評 『理系の子?高校生科学オリンピックの青春』=ジュディ・ダットン著」、『毎日新聞』2012年05月13日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120513ddm015070015000c.html


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