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書評:ムスタファ・シェリフ(小幡谷友二訳)『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』駿河台出版社、2007年。

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デリダとイスラーム?……文明の根源は「多元性」の尊重、そして保障する「来るべき民主主義」の普遍主義を語る。

書評:ムスタファ・シェリフ(小幡谷友二訳)『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』駿河台出版社、2007年。


「私は多元性が文明の本質そのものであると思います。多元性と言っても私は他者性という意味で使っていますが、差異の原理、他者性への敬意、これらは文明の根源と言えます」(デリダ)

著者のムスタファ・シェリフは、アルジェリア生まれの哲学者・イスラーム学者、政治家としても活躍するなど多彩な人物として知られている。本書は2003年、パリのアラブ世界研究所で開催された「アルジェリア・フランス、文明の対話に尽力した重要人物へのオマージュ」というテーマのシンポジウムでの著者とデリダの対談をレポートしたものだ。

デリダとイスラーム……一見すると、二つのキーワードは関係のないように見えるが、そもそもデリダはアルジェリア生まれのユダヤ人であること、そしてその批判的思索は絶えず「西洋」なるものを相対化させようとする試みであったことを想起すれば、この二つは全く別のものではないのだろう。そして本人自身が「地中海の子」と自己規定している。

さてデリダはシェリフとの対談で、「多元性」の尊重、そして「民主主義の普遍主義」を希求しているということを率直に語っている。「差異の原理、他者性への敬意、これらは文明の根源」であり、それを保障するのが「来るべき民主主義」である。ヨーロッパ中心主義的伝統を退けながら、現実には実在していない「来るべき民主主義」を説く。自己批判と改善可能性を受け容れることに軸足を置く民主主義は、イスラームと西洋の双方のためになるだろうと展望している。

シェリフが質問してそれに応える体裁だが、著者自身が誰よりもデリダを尊敬していること様子がにじみ出ており、ほほえましさを覚える。そして、質問に丁寧に応えるデリダの様子は、デリダ像を一新してくれるものであり驚いた。西洋世界とイスラーム世界のをむすびつけようとするデリダの平易な語りは、デリダ晩年の思索の恰好の入門書でもある。

またアルジェリアをはじめとする「北アフリカ」はイスラームとして歴史の古い地域であり、地中海を挟み現在に至るまでヨーロッパとの多様な交渉のある地域だ。「中東」に集約されるイスラームに対する平板なイメージを破壊してくれる一冊でもある。

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