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書評:原武史『可視化された帝国[増補版]--近代日本の行幸啓(始まりの本)』みすず書房、2011年。

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鉄道が形成する「可視化された帝国」

原武史『可視化された帝国[増補版]--近代日本の行幸啓(始まりの本)』みすず書房、2011年。

ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』(NTT出版)は、近代史や近代文化史を研究する者にとっては、いわば基本中の基本ともいうべき現代の古典の一冊であろう。本書は、アンダーソンの「想像の共同体」論を、明治以降の近代日本の実状とすり合わせながらがら、国民国家の成立にメディアがどのような役割を果たしたのかを分析する。

国民国家の制度化に先行する「想像の共同体」は出版メディアによって可能となるという筋書きだが、筆者は日本社会においては、それに相当するものがなかったという。では、日本の近代国家の成立に貢献したメディアは何なのか。筆者は鉄道に注目する。

メディアといえば、情報を伝達する手段をイメージするから、「鉄道がメディア?」と聞けば違和感があるかも知れないし、鉄道ファンを自認する筆者ならではの牽強付会?と思うかも知れないが、それは早計だ。鉄道も情報を伝達するひとつの手段であるし、情報だけでなく人間そのものを「結びつける技術的な手段」という点においては、具体的なメディアであろう。

さて鉄道に注目する筆者は、明治期の国民国家形成に果たした最大の役割を、鉄道を用いた天皇の行幸啓であると指摘する。天皇の「お召し列車」が全国各地を通過することで、各地域のひとびとは動員される。決められた時間どおりに走る列車に向かって、いっせいに敬礼する。この振る舞いが拡大することで「帝国」が「可視化」されながら成立していくとみるのである。

本書は天皇制論、政治学、文化史としての価値が高い一冊であることはいうまでもないが、「鉄道文化史」としても面白い一冊である。


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