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書評:山本武利『朝日新聞の中国侵略』文藝春秋、2011年。

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軍部による報道の検閲や嘘の報道? 実は自ら進んでその旗を振ることで成立した翼賛ジャーナリズム

山本武利『朝日新聞の中国侵略』文藝春秋、2011年。

8.15を境にしたメディアの変貌はひどいものがある。その日まで「鬼畜米英」と煽りに煽り、その日から「わたしたちも被害者でした」といけしゃあしぁあと「民主主義」を語ってきたのが“無節操”な日本のメディアである。これ関する罪責告白は、会社が大手であればあるほど皆無というのが実状だろう。そして、この問題が日本のメディアの権力との親和性、そして補完構造の根になっていることはいうまでもない。

さて本書は、『大陸新報』という昭和十四年に中国・上海で創刊された日本語新聞をとりあげ、『朝日新聞』の中国大陸における報道の実態を検証した一冊である。

上海事変以降明らかになるのは、日本の宣伝工作の遅れである。支那軍派遣報道部は、日本語新聞の創刊でこれに対抗する。大手各社をさしおいて朝日新聞社がこの指名を獲得する。紙面の題字は主筆の緒方竹虎が執った。

特務機関や知識人とジャーナリストたちの交差は実に複雑だ。路線争いやオーナーの対立など、一筋縄にはいかない複雑な実態を本書は丹念にほぐしていく。本書の史料精査は実に圧巻だ。そしてこれが歴史研究の「深み」であろう。

戦後、朝日新聞は『社史』においてこれら「汚点」をそれなりに自己告白している。しかし、本書を読むと、それは消極的免罪への「自己言及」にすぎない。実状は、積極的荷担を意図的に隠蔽しているともいえよう。本紙『大陸新報』以外の周辺活動がスルーされていることがそれを如実に物語っている。国内外での軍関係雑誌や書籍の発行、そして植民地でのプロパガンダ工作に目を向ければよい。

かつて戦時下ジャーナリズム研究家・高崎隆治氏は、新聞メディアよりも雑誌メディアの戦争責任が重いと語ったことがあるが、新聞メディアも雑誌メディアと同じ手法をとっていたことに驚く。すなわち『文藝春秋』は本誌の体面を守るために、都合良く迎合礼讃雑誌『話』を創刊し、翼賛報道を繰り返した。しかし新聞メディアも同じ手法を使っているということだ。そして、南京事件は、権力メディアへの便乗は、同業他社への圧倒や新聞市場の拡大へと点ずる契機となっている。

戦後、朝日新聞は、GHQに対して、戦争をぎりぎりまで回避する努力を怠らなかったと弁明している。しかし本書を読むと、説明責任とはほどとおいダブルスタンダードぶりが明らかになる。朝日新聞は、戦争を利用して部数を大きく伸ばし、広告収入も大きく増やしている。

かつて右翼から「国賊新聞」と罵られたリベラリズムの伝統を放擲し、「国策新聞」化へと進むのが戦前昭和の朝日新聞の歴史といってよいだろう。そして問題なのは権力の眼差しを「隠す」ことに協力して事業を拡大したこと、そしてそれと同時に、大陸新報社は、……まさに雑誌ジャーナリズムが本体を守るためにいつもで休刊してよいダミー雑誌を繰り返し発刊したように……子会社化させて本体の責任を逃れるよう仕込んだこと。このことは広く周知されたい時事である。

その意味では、戦前昭和の「事変」化報道に取り組むなかで、もっとも戦争を光明に煽っていたのは朝日新聞かもしれない。ほとんど隠蔽されたままにあるのが「メディア」と「戦争」の関係だろう。本書はそこに一筋の光を放つ一冊だ。

以下少しだけ蛇足。

1994年に安田将三、石橋孝太郎『朝日新聞の戦争責任 東スポもびっくりの戦争記事を徹底検証』(リヨン社、のちに太田出版で再刊)が刊行。この一冊は紙面を縮刷的に、統制が求めた以上の率先・煽動を検証した。朝日新聞は著作権侵害を理由に圧力をかけ、発売停止となっている。

そして、別に『朝日新聞』が憎いわけではありません。しかし見落としていることは沢山あると思います。返す刀ですが『朝日新聞の中国侵略』を刊行した文藝春秋はもっとひどい。社史でも殆ど触れられることのない「満州文芸春秋社」についても研究が必要とされる。※しかし現物史料が殆どないんですよね(涙


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