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書評:E・トッド(石崎晴己訳)『アラブ革命はなぜ起きたか―デモグラフィーとデモクラシー』藤原書店、2011年。

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ここちよい高揚感さそう本格的な文明論

E・トッド(石崎晴己訳)『アラブ革命はなぜ起きたか―デモグラフィーとデモクラシー』藤原書店、2011年。

 人類学と人口統計学を駆使して、アラブの春を予見した一冊との評価が多いが、そんな歴史学的まがいものの一冊ではない。本書は間違いなく「文明論」だ。

 議論の論旨は、人口動態(デモグラフィー)の急激な変化によって社会は民主化へと動きだすということだ。しかしここでいう民主化を狭苦しい「西洋化」と捉えてしまうとトッドの普遍主義を損なってしまうことになるだろう。

デモクラシーへの筋道は、人口動態に起因する。人口動態とは、幅広く捉えるならば、わたしたち一人一人のライフスタイルのことである。先制よりも人間は自由と平等を希求する。トッドの思考の基底には、単純なシステム論ではない、本物の普遍主義が存在する。

人間の生活をむしばむものには様々な形態が存在する。そしてその一つが、文化的な桎梏である。その具体的な代表が、まさにデモグラフィーで分析される家族制度である。識字率の上昇や出生率の低下、情報の共有と自己の確立により、権威主義的な直系家族は挑戦を受けている。勿論、民主化への筋道は西欧的ライフスタイルのそのままの受容ではない。しかし挑戦への応答から新しい普遍が誕生するのではないだろうか。

本書は、軽口も交えながら、構成されたインタビュー集という体裁だが、最初に言及したとおり本格的な文明論の一冊だ。

解説も充実しており、初めてトッドを手に取る人にもお勧めだ。

民主化は必然としても、中身をどうデザインするのか。今、この地球に生きている自分たち自身が試されている。読み終えてからの高揚感がなかなか収まらない。

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