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覚え書:「今週の本棚:中村桂子・評『なぜ地球だけに陸と海があるのか』=巽好幸・著」、『毎日新聞』2012年04月29日(日)付。

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今週の本棚:中村桂子・評 『なぜ地球だけに陸と海があるのか』=巽好幸・著
(岩波科学ライブラリー・1260円)


 ◇水ゆえに大きく変動するこの星のしくみ
 地球に陸と海があるなんてあたりまえ、多くの方がそう思っているだろう。私の場合、仕事柄海については考えてきた。地球は水の惑星と呼ばれ、海があったからこそ生命体が生まれたのだから。でも陸は……。
 実は、大陸の形成は地球上の重要事件であり、しかも近年その研究に大きな進歩が見られているようなのだ。著者らはその中で「大陸は海で生まれる」という仮説を立て検証中なのである。新しい科学を生みつつあるワクワク感が伝わり、読むうちに「地球だけに陸と海がある」という文字が輝いてきた。
 地球は、中心から核、マントル、地殻という三層構造をしており、地殻はマントルの上に浮いている。マグマから作られる地殻には、大陸地殻、海洋地殻の二種がある。前者は安山岩質で平均四〇~五〇キロメートル、後者は玄武岩質で六キロメートルと組成も厚さも異なる。これが惑星としての地球の特徴なのである。
 ところで、この地殻なるもの安定してはおらず、常に作られ続けている。ここで登場するのがプレートテクトニクスである。地球の表層を覆ういくつかのプレートは、地殻とマントルの一部が一緒になったもので常に動いている。海洋プレートは火山が密集するところで海溝からマントルへと沈み込み、ここで安山岩質のマグマが発生することがわかってきた。先に大陸地殻は安山岩質だと述べた。そこで、この沈み込み帯で大陸地殻が作られるのではないか、つまり海で大陸は生まれるのではないかという考え方が出て来たのである。
 一九九六年、東大の海洋研(現大気海洋研)が伊豆・小笠原諸島付近の地下構造探査で火山の真下に二〇キロメートルの厚さをもつ「島弧地殻」を発見し、それが大陸地殻と同じ安山岩質だった。そこで小笠原諸島から更に南のマリアナ諸島も含めた「伊豆・小笠原・マリアナ弧(IBM弧)」調査プロジェクトが始まった。IBM弧があるフィリピン海プレートが年間数センチ移動し、この運動によってマントルに沈み込んでいることが、海溝型巨大地震「南海・東南海・東海連動型地震」を発生させているという重要な場所である。IBM弧の誕生は五〇〇〇万年ほど前、その後プレートと共に北へ、更に東へと移動し、一五〇〇万年前にアジア大陸から分離してきた本州に衝突した。伊豆半島・丹沢山地がこれでできたのだが、近年、衝突の際に地殻の一部が融(と)けて接着剤となり、それが丹沢の花崗岩(かこうがん)であることがわかってきた。陸の誕生の経過が身近に残されているのである。
 三八億年前に始まったプレートテクトニクス。以来沈み込み帯で大陸が作り続けられていることで地球という星の特徴が生まれたことがわかってきた。著者はそれを「サブダクションファクトリー」(沈み込み工場)と名付け、海洋物質(堆積(たいせき)物、地殻、マントル)を原材料とする大陸形成とそのための地球内部の物質循環を語る。金星や火星にもマントルや火山活動があるのにプレートテクトニクスがあるのは地球だけなのは、沈み込みが起きるには摩擦を小さくする水が必要だかららしい。結局水に戻った。水惑星と聞くと、美しく青い星を思い浮かべるが、水ゆえに地球は大きく変動する星にもなったのだ。地震もこの地球変動の一つなのである。
 宇宙や生命に比べて地球はあまり語られていない。正直、不慣れな用語や物質名にかなり戸惑った。興味深いテーマなので、今後更に読みやすい本の登場を期待している。
    --「今週の本棚:中村桂子・評『なぜ地球だけに陸と海があるのか』=巽好幸・著」、『毎日新聞』2012年04月29日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120429ddm015070013000c.html


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