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覚え書:「時代の風:欧州統合の未来=仏経済学者・思想家 ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年5月27日(日)付。

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時代の風:欧州統合の未来=仏経済学者・思想家 ジャック・アタリ


「ユーロ連邦」で成長を
 フランス人は自国大統領を君主とみなしがちだ。仏大統領が皇帝のような存在であるのは日本人や他の外国人には理解されにくい。(天皇制の)日本には首相がおり、英国には首相と女王がいる。米国やフランスのように王をもたない共和国では大統領がその威厳を備えなければならない。国を分断するのでなく、糾合するの大統領が必要なのだ。
 (社会党のフランソワ・オランド氏が勝利した5月6日の)仏大統領選で有権者が発したのは「若者、社会的公正、欧州を大事にしてほしい」というメッセージだ。自由主義への反対ではない。オランド大統領は金融界の行き過ぎに反対しているのであり、金融界が企業の発展や産業の資金調達に寄与することは支持している。支持していないのは「金融界の発展にのみきゅうきゅうとする金融界」だ。
 オランド大統領は経済成長の重要性を説く。成長を生み出すのは人的投資、教育、科学技術、研究、人口増加、(労働力・物・サービスなどの)流動性、公平さだ。オランド政権は財政支出の大幅削減、より公平な税制度、初等教育の重視、失業者への職業訓練によって、公的債務の削減と経済成長を両立する計画を実施できると確信している。
 フランスは公的債務対策が遅れており、欧州の中で必要な努力を最も怠っている国の一つだ。私はサルコジ前政権で改革委員会を主催し、債務残高の削減を求めたが実施されなかった。サルコジ前大統領が実行しなかった私の改革案をオランド大統領に実行してもらいたい。


 オランド政権が成功するかどうかは欧州が連邦の段階に進み、経済成長のための強力な手段を手に入れ、欧州共通通貨ユーロの競争力を維持できるかどうかにもかかっている。連邦制とは欧州が連邦予算を持ち、域内の富を再分配できるということだ。
 旧ユーゴスラビアなどに版図を拡大しようとしている欧州連合(EU、加盟27カ国)は政治統合を進めるには大きすぎる。連邦になるにはもっと小さな領域が必要だ。つまり、(現在、17カ国で作る)ユーロ圏が連邦にならなければならないのだ。ユーロの維持は欧州統合の強化によってのみ可能になる。
 万が一、多くの人が指摘するようなユーロの崩壊が起これば、欧州はまったく別の局面に突入することになるが、私はユーロが崩壊するとは思っていない。いくつかの危機を経て、欧州はいずれ連邦制になると思う。そうなれば文字通り「大国」になる。
 欧州と米国を比べると、欧州の方がうまくいっている。欧州では貿易黒字が出ているが、米国ではそうではない。公的債務の対国内総生産(GDP)比は欧州で85%だが、米国では100%以上だ。フランスでは平均余命が延びているが、米国は下がっている。1人当たりGDPも欧州が米国を上回っている。
 だが、米国が欧州に勝っている点が二つある。まず、人口の増加だ。米国が多くの外国人を引きつける土地になっているためだ。次に、連邦国家であるために、資金調達、開発、インフラ投資の権限を持っている点だ。誰もがギリシャの危機を語るが、カリフォルニア州の問題は語らない。なぜなら米国には、予算の穴を埋め合わせることのできる連邦国家が存在するからだ。


 欧州には今、異なる二つの潮流がある。一つは、社会福祉や公平性、連帯を重視するフランス的な欧州を志向する動きだ。もう一つは(伝統的な)欧州から離れ、自分さえ良ければよいと考える(反連帯の)個人主義的な傾向だ。
 再選挙が実施されるギリシャでは(EUと合意した緊縮財政策の)再交渉を望む政党(急進左派連合)が優生だが、彼らは反欧州ではない。むしろオランダやセルビア、ドイツの一部で起きていることの方が心配だ。「なぜ他人(他加盟国)のために税金を払わなければいけないのか」という意見が出ているからだ。
 だが、(弱肉強食の)競争政策だけでは成し遂げられないことがある。例えば(米ボーイングなどに対抗するため欧州主要国が70年に設立した国策的な航空機メーカー)エアバスだ。当時、(エアバスは寄り合い所帯ゆえに体力が弱く)もし純粋な競争政策しかなかったならば、今のエアバスは存在しなかっただろう。
 単一市場を持つ欧州は世界の実験室のようなものだ。世界貿易機関(WTO)ができて、世界も一種の単一市場と言えるからだ。もし、欧州がまとまりを維持することができなければ、私たちは、荒々しく破滅に至る保護主義に戻ることになるだろう。
 欧州で今後、民族主義的な傾向が強まる危険性がある。欧州にとどまらない。20世紀、貧しい人々は植民地独立で豊かな人々をお払い箱にした。だが、21世紀は豊かな人々が貧しい人々を追い払う世紀になるかもしれない。豊かな者たちはもはや連帯を望んでいない。私たちはその振る舞いを目の当たりにしつつあるのだ。【構成・宮川裕章】
    --「時代の風:欧州統合の未来=仏経済学者・思想家 ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年5月27日(日)付。

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