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書評:デイヴィッド・ライアン(田島泰彦、小笠原みどり訳)『監視スタディーズ――「見ること」「見られること」の社会理論』岩波書店、2011年。

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「監視」へ自ら「参加」していく現代の監視社会

デイヴィッド・ライアン(田島泰彦、小笠原みどり訳)『監視スタディーズ――「見ること」「見られること」の社会理論』岩波書店、2011年。

地下鉄サリン事件の容疑者の逮捕に監視カメラの映像が一躍かったことを想起するまでもなく、それは今はわたしたちの環境に「自明のもの」として存在するものとなってしまった。安全保障の予備的対策という代価は何をもたらすのか、そしてその現状と問題は何か。本書は「見ること」と「見られること」を知のネットワークのなかで基礎付け、現代における監視の意味を問う刺激的な一冊である。

監視カメラはここ数年に誕生したものではない。設置増加は近年に特異な現象とみることが可能だが、著しく変わったことは数の問題ではない。従来は、警察を初めとする権威が
個々人を監視するという一方向的な眼差しだったものだが、現在では、それは「双方向」になりつつある。ここでは「プライバシーの保護」なんて問題にならない。その概念そのものが破壊されているのである。

問題はカメラだけではない。ネット決済でクレジットカードを使ったり、オンライン取引は日常のありふれた光景だ。しかし買い物をしたりするたびに、自分のデータを知らずに「提供する」しているわけでもある。監視システムとはソフトにしなやかに忍び込む。私たちの日常は意識していないだけで、監視と一体化した社会である。一方的な監視から監視へ「参加する」のが現代の特徴と著者は指摘する。

人々が様々な個人データをもとに振り分けられ、格付けされるのが現代社会の特徴だ。そこで発達する監視・管理システムは、自由や平等をどのように侵食しているか。本書は社会的な変化に注目するだけでなく、映画や小説の中にも表象される「監視の思想」を発見し、分析を加える。

「監視スタディーズ」は、新たな学問世界への扉を開くと同時に、戦慄すべき告発の一書でもある。

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