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覚え書:「今週の本棚:張競・評 『美人の歴史』=ジョルジュ・ヴィガレロ著」、『毎日新聞』2012年06月03日(日)付。

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今週の本棚:張競・評 『美人の歴史』=ジョルジュ・ヴィガレロ著
 (藤原書店・4830円)

 ◇身体論の視点で捉えた理想の「美」の変遷
 大学生に「理想的な美人はどのような顔をしているか」と聞いたら、男女にかかわらず大半は「西洋人のような彫りの深い顔」という。白人のほうがきれいだと断言する若者も少なくない。
 そう思うのも無理はないのであろう。リカちゃん人形、ディズニーランド、少女マンガ、ハリウッド映画。子供たちは幼い頃から、白人が美人という暗示に満ちた世界で生きてきたからだ。ところで、西洋ふうの美人像がどのように出来上がったのか。この難問に答える書物がついに現れた。
 日本では美人論の書物に事欠かないが、ヨーロッパでは「美」についての探究心が高くても、「美貌」を通史的に検討される例はそう多くない。わずかに思い出せるものはおおよそ二種類に大別できる。一つは、西欧の名画を羅列し、その展示的価値を時代順に追ったものである。もう一つは数々の図像に共通する紋切型を見いだし、その中から「抑圧」の構造を読み出そうとする試みである。
 ところが、ジョルジュ・ヴィガレロはまったく違う角度からこの問題を見ている。というのも彼は「美貌」を表象の問題として捉えようとしていない。何しろ歴史は身体に刻まれる、という仮説を提示した人物だから、絵画にせよ、文学作品にせよ、単純に「表象」として見ていない。描かれた対象には「真実」の断片がくっきりとした跡を残しており、そうした痕跡に目を凝らし、つなぎ合わせることによって、西欧社会の美的観念の変遷を解明できると信じているからだ。どんな名作であっても、記録媒体という意味では、回想録や日記や書簡とそれほど変わらない。実際、身体に刻まれた跡から、歴史の残響を聞き出そうとしたとき、ヴィガレロにとってそうした文献はすべて同質の「素材」になる。
 その方法論の有効性を示すために、語りの戦略は丁寧に練られている。絵画や文学作品に描かれた身体美の含意を読み解くときには、風俗史や科学史の文献にも目を配り、同時代の証言も決して見落とさない。むろん、ヴィガレロはイメージと権力のつながりを無視したわけではない。しかし、可能な限り史料を活用し、身体性の「真実」を掬(すく)いだそうとしている。
 時系列の叙述にありがちな偏りを補正するために、さらに三つの戦術が取られている。一つは身体に向ける視線とマインドとの関連を検討することである。近世には身体の「上」の部分、とくに顔が注目の対象であった。目鼻の形、顔の色つや、視線の柔軟さなど、女性美の評定は体のごく一部分に限られていた。
 時代が下るにつれ、身体の「下」の部分への考慮が見られ、美しい胸、丸々とした腕、わき腹のラインなどに注意が払われるようになった。19世紀末になると、脚線美やヒップの形など下半身が特権的に語られるようになり、また、胸部の美しさは人体構造や医学的な知識と結びついて再認識された。20世紀に入ると、ボディ・ラインの露出はもはや禁忌ではなくなり、それどころか、商品と結びついて濫用(らんよう)されるようになった。映画女優からファッションモデルへと、美の代弁者が世代交代するなかで、美容の消費はついに大衆化を果たした。
 ポスト構造主義以降、批評家たちは芸術作品について、外的現実に照らして論考するよりも、「表象」という盾の後ろに身を隠そうとする傾向がある。図像を記号として解読し、形象と権力構造の相関性を指摘するだけで事足りるという風潮がある。本書は頂門の一針とまではいかないが、身体論という視点から検討する場合の、豊かな可能性を示唆した。(後平澪子訳)
    --「今週の本棚:張競・評 『美人の歴史』=ジョルジュ・ヴィガレロ著」、『毎日新聞』2012年06月03日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120603ddm015070051000c.html


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