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覚え書:「今週の本棚:『幕末明治見世物事典』=倉田喜弘・編」、『毎日新聞』2012年06月24日(日)付。

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 明治5年春、英国人のジャーナリストが神田橋周辺でむしろ掛けの小屋に入ると、おぞましく不愉快きわまりない光景を目にした。少年が兎の死骸を食いちぎっていたのだ。「驚クベキ倫理を乱セシ野蛮ノ風習アリ」という記事が書かれた。国辱となじられたのだから、数日後には小屋掛けは一掃されたという。江戸期の人々はこの種の見世物になれていたが、それを低俗卑猥として改めるのが明治期の文化政策になる。生(いき)人形、居合抜き、猿芝居、河童、蛇つかい、女相撲、ろくろ首などは名前だけでも想像できる。だが、鳥むすめ、どっこいどっこい、のろま人形、阿呆陀羅経(あほだらきょう)などとなると、およそ思いもおよばなくなる。
 本書は、これらの見世物を豊富な図版を手がかりに説明する。たとえば、のろま人形は、江戸の人形浄瑠璃座で野呂松勘兵衛が「頭ひらたく色青黒く、いやしげ」な人形をつかったのが始まりだった。愚鈍を意味する「のろま」の語源でもあるのだ。
 およそ低俗卑猥とは程遠いものもあり、緻密で色鮮やかな貝細工などはその技芸が廃れたことが惜しまれる。世相と心性の社会史としてもすこぶる興味深い。
    --「今週の本棚:『幕末明治見世物事典』=倉田喜弘・編」、『毎日新聞』2012年06月24日(日)付。

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