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「マイノリティに不利な条件を押しつける国家や社会はマジョリティをも抑圧」する

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マジョリティの不幸
 本書で述べてきたように、戦時下の朝鮮人は、同じ帝国臣民とされながらも、日本人に対しては見られなかったような手段を用いた動員の対象となり、不利な条件のもとでの労働を強いられた。だが、これは日本帝国のマジョリティたる日本人がマイノリティの朝鮮人を犠牲にすることで恵まれた立場にいたということを意味するわけではない。むしろ、朝鮮人の存在によって日本人民衆に対する抑圧もまた続けられていたと見ることが可能である。
 労働力不足のなかで増産を実現しなければならないという問題の解決策の選択肢は、何も安い労働力を外部から導入するということのみではなかった。労働者の生産意欲を高め、労働時間を適切に管理するなどして、生産性を向上することで労働力不足をカバーする政策もあり得たし、少なくともそれが加味されてしかるべきであっただろう。労働運動が壊滅していた戦時体制の初期であってもそうした議論はなかったわけではない。労働力不足がもっとも問題となっていた炭鉱についても労働者の待遇改善こそが必要であるとの意見はみられた。
 だが、すでに見てきたようにそうした選択はとられなかった。朝鮮人という安く使える労働力が豊富だという認識、さらには無理やりにでも彼らを連れてきて働かせることが可能であるという条件が存在していたこととかかわっているだろう。これは朝鮮人労働者を不利な条件で働かせることを当然とすることによって、日本人労働者の待遇も改善されないままとなったことを意味している。そのようにして、過酷で危険な労働環境であることが知れ渡っていた炭鉱では、監獄部屋のごとき労働管理がむしろ再び増えた。そしてそこには日本人も就労していた。日本内地の炭鉱労働者全体では戦争末期をでも日本人が七〇%弱を占めていたのである。
 結局のところ、マイノリティに不利な条件を押しつける国家や社会はマジョリティをも抑圧していた。そして、そのような状況をマジョリティが自覚し改善し得ずにいたことが、朝鮮人強制連行のようなマイノリティに対する加害の歴史をもたらしたのである。
 念のために付け加えれば、外部から人を入れなければ問題なしに帝国の内部にいたマジョリティが暮らすことができたわけではない。奴隷労働のようなものを誰かが担わなければ成り立たない社会経済システムがある限り、その場合は、帝国の内部のマジョリティのうちのもっとも弱い立場の人びとにそれが押しつけられたはずだからである。
    --外村大『朝鮮人強制連行』岩波新書、2012年、237-238頁。

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2月に出版された日中戦争下から敗戦までの間の朝鮮半島の人々に対する強制連行の実態を紹介した『朝鮮人強制連行』を取り急ぎ、通勤の電車内で読了。

おおまかな経緯だけは知っておりましたが、その輪郭の内実を詰めることができたように思います。

しかし、そもそも振り返ってみるならば、朝鮮半島の方であろうが、日本に在住する方であろうが、同じく「臣民」という建前でありながら、人間を「粗末」にするというシステムや発想というものは、どこの人間という分水嶺をたやすく超え、誰であろうが「利用」できるものは蕩尽してしまうということには改めて目を開かれたように思われます。結局は弱きにふんぞりかえる「ねじの論理」ですからね。
※うえで指摘の通り、そもそも炭鉱労働の70%弱は日本人労働者の「奴隷労働」によって成り立っている訳ですから。

もっともキツい労働現場でありながら、国家の基幹作業であった「炭鉱労働」に関しては、機械化への切り替えや労働条件の整備など様々な提案があるものの、一蹴にされてしまう。そして単純な人海戦術的投入が、コスト的に割の合わないにも拘わらず、それがなし崩し的にゴーサインされていく。

その意味では、「誰かの不幸のうえに、自身の幸福を構築する」だとか「犠牲はいたしかたない」という物知り顔の「大人」のシニシズムという「犠牲のシステム」とは本当に縁を切っていかなければならない。

そして見て見ぬ振りをしてはいけないのではないか……痛切に感じさせれた次第です。

まあ、「今さら、そんなこといわれても、あんた、バカ?」って言われそうですが……ばかなので致し方ありませんが。

恐らく原発労働の問題や基地集中の問題や構造的な貧困の問題も「心根」としては同根なんだろうと思う。

「見えないフリ」をして自己正当化するのは辞めた方がいい。


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 少なくとも言えるのは、原発が犠牲のシステムであるということである。そこには犠牲にする者と、犠牲にされるものとがいる…犠牲のシステムでは、或る者(たち)の利益が、他のもの(たち)の生活(生命、尊厳、日常、財産、尊厳、希望等々)を犠牲にして生み出され、維持される。犠牲にする者の利益は、犠牲にされるものの犠牲なしには生み出されないし、維持されない。この犠牲は、通常、隠されているか、共同体(国家、国民、社会、企業等々)にとっての「尊い犠牲」として美化され、正当化されている。そして、隠蔽や正当化が困難になり、犠牲の不当性が告発されても、犠牲にする者(たち)は自らの責任を否認し、責任から逃亡する。この国の犠牲のシステムは、「無責任の体系」(丸山真男)を含んで存立するのだ。
    --高橋哲哉『犠牲のシステム 福島・沖縄』集英社新書、2012年、27-28年。

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