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書評:テリー・イーグルトン(大橋洋一訳)『宗教とは何か』青土社、2010年。

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テリー・イーグルトン『宗教とは何か』青土社、読了。ユダヤ・キリスト教における「神」をめぐり、ドーキンスやヒッチンス等らの宗教を非科学的「妄想」として批判する科学的・合理主義的論難を快刀乱麻に斥ける。「およそ似つかわしくない人」による宗教が政治的に重要な意義を持つとの現代批評。

著者は、宗教と科学、キリスト教と進化論、信仰と理性某等々、宗教にまつわる様々な論難を取り上げ、宗教に注目する意義を語る。宗教の復活は冷戦構造の崩壊による。それまで社会主義名ナショナリズムが引き受けてきた課題を宗教が引き受けたからだ。

その過度のリアクションは宗教を「看板」にする原理主義運動だ。しかし、それは特定の宗教の専有物でもない。こうしたアクションに対して、欧米のインテリはドーキンスの『神は妄想である』のように、それを非科学的妄想として斥けた。しかし実際はどうか?

宗教が現実的諸問題をパーフェクトに解決することは不可能であろう。しかし宗教運動は、グローバル資本主義の下にある現実と向き合っている。しかし「妄想論」と斥ける論者たちはどこに定位するのか。彼等は全く無視している。ここは著者らしい眼差し。

さて、本書は「神の存在」を否定したドーキンス、ヒッチンス(著者はまとめて「ディチキンス」と表記!)らを批判する。しかし、一方で、キリスト教とキリスト教会の歴史の負荷は弁別し、特に後者の害(例えば聖職者の腐敗や暴力)も同時に弾劾する。

権力に処刑されたイエス=キリストと、原点から乖離したキリスト教会。そして西洋文明による搾取と差別の歴史に真正面から取り組む著者の姿勢と、科学の進歩の積極性のみを楽天的にとらえ、暗部を顧みない批判論者との違いは大きい。

ドーキンス等の眼中にあるのは、恐らく合衆国の原理主義的宗教運動批判であろう。そして著者が注目するのは、ヨーロッパの伝統的キリスト教であると思う。その違いもあるが、著者は、資本のトータル支配に抗う宗教の生命力に積極的に注目する。

本書は現代社会で宗教の意義を再確認する一緒であると思う。ただし著者の『~とは何か』シリーズと同様、それに答えてくれるものではない。原題は『理性、信仰、革命 ー 神論争についての省察』(訳者)。原点と流通を顧みさせてくれる好著。

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