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覚え書:「時代の風 アジア・大平洋の未来=ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年9月9日(日)付。

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時代の風
アジア・大平洋の未来
ジャック・アタリ 仏経済学者・思想家

「平和と成長」世界の利益
 私は30年前、世界の重心が「大西洋」から「大平洋」に向けて移動し始めたと指摘した。重心の移動は米西海岸に端を発し、今や大平洋をはさんだ対岸(アジア)にまで達している。
 アジア・大平洋地域は急速に台頭し、経済的に極めて重要な役割を担うようになっている。韓国、日本、中国だけでなく、ベトナム、インドネシア、オーストラリアも重要な国々だ。人口も多い。だが、この地域が米国に取って代わるスーパーパワーになる資質を持っているとは思わない。
 まず、アジアは分断されている。経済的には技術大国の日本を韓国が追いかけ、国内に分裂を抱える中国が続く。ベトナムは発展が遅れ、インドネシアは混とんとしている。ロシア極東では人口流出が進み、住民は中国人の割合が多くなっている。
経済的に欧州のような共通市場を創出する状況には遠い。地政学的に見ても、アジア諸国はバラバラで、軍事紛争の瀬戸際まで行くこともある。アジアは世界経済の成長の原動力だが、地域諸国が政治的、経済的に合意する条件を整えることができない限り、次の段階に進むことはできないだろう。


 中国と日本が良好な関係を持つことが重要だろう。それがアジア地域が発展するための鍵だ。欧州では仏独間にかつて幾多の戦争があったが、今日では真の平和がある。だが、日本と中国の間ではそうではない。
 フランスでは第二次世界大戦後、人々がドイツの自動車を買おうとしなかったが、今ではそんなことは全くない。だが、中国人は日本よりも韓国を好み、日本製品よりもたくさん韓国製品を購入する。韓国の映画や漫画も好まれている。
 一方、ソ連解体によって敵を失った米国の軍産複合体は敵を必要としている。考え得る敵が中国なのだ。中国が米国の敵となるには、日本を守るという口実を得る上で、日本が中国と敵対していなければならない。今後、米国が中国とその他のアジア諸国を対立させるための口実や紛争が増えていくだろう。
 8、9両日にロシア・ウラジオストクで首脳会談が開かれるアジア大平洋経済協力会議(APEC)は極めて重要だ。そうした事態を回避し、関係諸国が本当の意味で協力するための環境を整備する手段となり得るからだ。
 中国は広大な国土を抱え、成長への潜在力を持った国だ。他国と同様に民主主義へと向かっている。現在の体制はエリート支配の一形態だが、今後、民主主義の台頭に直面しながら持ちこたえることができるとは思われない。中国のように広大で不平等な国において民主主義の台頭は混乱を招くこともあり得るのだ。
 中国が安定し、統一されていることは誰にとっても望ましい。中国の軍事力を懸念する必要はない。なぜなら、中国は本当の意味で軍事大国ではないからだ。容態名海軍、空軍を持つにはほど遠い。
 中国の歴史を振り返る時、5000年前から帝国だったかのように語られるが、うち4000年は内戦だ。中国全土を支配下に収めた皇帝は極めてまれだ。世界の中心になるには(他国を征服して領土を広げる帝国主義的な傾向を持つことが必要だが、中国の場合そうではない。
 一方ロシアは(欧州とアジアという)二つの未来の間で迷っている。極めて欧州的であると同時に、シベリアの存在によってアジアにも高大な領土を抱えている。ロシアはこの地域に参加するために中国とのバランスを取ろうとしているが、ロシアにその方法があるかどうかは不明だ。
 中国がシベリアに進出したとしても、ロシアは大したことができないだろう。すでにロシアの多くの都市はアムール川をはさんだ対岸の中国から大きな影響を受けている。中国が必要とする天然資源を擁するカザフスタンは次第に中国に傾斜しつつある。
 「欧州の大国」となるか、「アジアの大国」となるか--。ロシアは選択を迫られていると思う。だが、「アジアの大国」となるための手立てがロシアにあるだろうか。アジア地域とロシアのアジア部(シベリア)への投資となるが、当面、ロシアは実施しないだろう。


 アジアが発展し続けるには共通市場に向かわなければならない。さもなければ中国は内向きになり、不安定化する。東南アジア諸国連合(ASEAN)は長期的には単一通貨、少なくとも共通市場を実現しなければならない。アジア諸国が保護貿易主義に走るなら極めて危険だ。
 欧州は「強いアジア」を必要としている。アジアが欧州製品を購入し、欧州に観光客を送り込んでいるからだ。アジアが発展すればするほど、アジアの給与水準が上がり、欧州製品の競争力が増すことになる。アジア・太平洋地域は世界経済の原動力であり続け、この地域が平和であることが全世界の利益になるのは明白だ。【構成・宮川裕章】
    --「時代の風 アジア・大平洋の未来=ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年9月9日(日)付。

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