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狭隘な軍国主義的運動のため、彼らが如何に敵愾心、憎悪心を助長せられ、精神生活の歪曲と低下とを余儀なくせられて居るかを思ふ時

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 静かに青少年教育の立場から考へて、狭隘な軍国主義的運動のため、彼らが如何に敵愾心、憎悪心を助長せられ、精神生活の歪曲と低下とを余儀なくせられて居るかを思ふ時、そゞろ戦慄を禁じ得ないものがある。某々事件を殊更に宣伝の材料にした映画、読物、講演等を通じて青少年の胸の奥に刻み込まれた傷が、十年二十年の後に如何に現はれるか。その時の恐るべき結果を如何にして除かうとするのか。
矢部喜好「福音の同志の深慮に訴ふ」、『神の国新聞』六三七、一九三一年一一月二五日)
    --鈴木範久編『最初の良心的兵役拒否 矢部喜好平和文集』教文館、年、176-177頁。

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世相のきな臭くなる1931年、満洲事変の端緒となる柳条湖事件が勃発し、政治的コントロールを離れた戦火の拡大は、メディアの煽りによって国民に拍手をもって迎えられた。

日露戦争のおり、「従軍して人を殺すよりは神の戒律にしたがうことに心をきめた」矢部喜好は、召集に応じず、日本で最初の良心的兵役拒否(日本には良心的兵役拒否の制度がなかったから、陸軍刑法違反)で処罰された。

それから四半世紀後の1931年、矢部は「福音の同志の深慮に訴ふ」という文章を寄せ、戦前日本の行く末に杞憂すると同時に、時流に抗する姿勢を明確に示している。

この文章では、冒頭で、「目的は手段を神聖にする」「平和の為めの戦争だ」「力は正義なり」との所論の欺瞞をしてきしたうえで、「戦争は明らかに非基督教的行為である。干戈によって正義不正義が決せられる如く考へるのは妄想も甚しいものである」から「断じてクリスチャンの採るべき道ではない」と断言した。

それに続けて、狭隘な軍国主義による敵愾心や憎悪の助長が青少年に蔓延する時流に杞憂を示したのが冒頭の引用です。

矢部は「純粋無垢なる少青年の魂を防衛せねばならぬ」として、日曜学校での取り組みなど具体策を2-3示しながら、この文章をまとめておりますが、読み直すたびに、この矢部の指摘は、今から80年近く前の「過去」の話では決してないと思うのは、私ひとりではないと思います。

このとろこの加熱した煽動まがいの報道。
そしてそれを真に受けるのでしょうか。
昨日まで「世界平和が大事☆」などといってた人の良いオッチャンや、優しそうなオバハンたちが手のひらを返したかのように劣悪な愛国者になっていく姿を多々、拝見すると、矢部が危惧したような雰囲気が俄に醸成されつつあることに恐怖してしまいます。


ただ、恐怖しても始まりませんので、ひとつひとつの結び目をほぐしていくしかないのだとは思うのですけれども。

ふぅ。

いずれにしても、一九三一年から「十年二十年の後に如何に現はれるか」を想像してみてください。


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