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南方は集合名詞として人々をとらえなかった。あらゆる職業の人々と、個人としてのつきあいを重んじた

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 第一に、「地域」または「地方」に対する双方の感覚の差である。
 南方は、定住者の立場から、地域を見た。柳田は、農政学者として、農政役人として、そして旅人として地域を見た。南方は、地方にいて地方から中央を見、柳田は中央にいて中央から地方を見たともいえる。
 第二に、南方は、世界の、そして地球の一部としての地域(エコロジーの単位)を考えたのに対して、柳田は、日本国の一部としての(政治的単位)を考えた。
 第三に神社合祀反対運動において、南方が、地方官憲に対して、対決をおそれぬ精神でぶつかっていったのに対して、柳田は正面衝突をなるべく回避して隠微にことをはこぶように忠告した。
 第四に、南方が、外国の学者へも檄をとばして、国外の世論を結集しようとしたのに対して、柳田は、そのような行為は国辱を外にさらすものだと激しく反対した。南方は、今日のことばでいえば、国をこえた民間交流を射程に入れていたのである。柳田はこのことに関して、日本国家の外に出ることができなかった。
 第五に、柳田は、「常民」を造語し、それをかれの民俗学の中心においた(鶴見、『漂泊と定住と』八八-九〇ページ。色川、『柳田国男』、三四ー三九ページ参照)。
 南方は集合名詞として人々をとらえなかった。あらゆる職業の人々と、個人としてのつきあいを重んじた。
 田辺で、南方が親しくつきあった人々の職業は、種々雑多である。
    --鶴見和子『南方熊楠 地球志向の比較学』講談社学術文庫、1992年、156-157頁。

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ちょと気になることがあって、南方熊楠論の「古典」といってよい鶴見和子さんの著作を再読。

上に引用したのは、日本の民俗学の父母といってよい、柳田国男と南方熊楠の「まなざし」の違い(そして眼差しの違いは「生き方」として形をとる)をまとめた部分です。

柳田国男をフルボッコするのは、鶴見さんも、引用者の私もその意図ではありません。
しかし、同じ「地上」で生活をしながら、どのようにみていくのかで大きくライフスタイルが異なってくるのは否定できないと思います。

何が?

というわけではありませんが、このところ「政治的単位」でのみ人を断罪するもの謂い、や「国家の外に出ること」のできないドクサのようなものが、大手を振って歩くさまを、みるにつけ、辟易とします。ですから自戒をこめて、その対比を紹介させて頂いた次第です。

人間とは、そうしたカテゴライズされた一側面として生きている以前に、ただ生きている「同じ」人間である原点を忘れた恫喝と断罪が大拍手をもって迎え入れられる。

その結果はろくなものではないことは歴史を振り返ればわかるものですが、単純化という「断定」は分かりやすいのでしょうか……ねぇ。

単純化という「断定」や「政治的単位」や「国家の外に出ること」ができないひとというのは、おうおうにして、ひとびとを「集合名刺」として捉え、「あらゆる職業の人々と、個人としてのつきあい」を重んることができないパターンが多いと思いますが、かくありたいとは全く思いません。


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