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覚え書:「書評:官僚制としての日本陸軍 [著]北岡伸一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2012年10月21日(日)付。

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官僚制としての日本陸軍 [著]北岡伸一
[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)
■明治の政軍関係、解体の過程描く
 著者は冒頭で、本書が「近代日本における政軍関係の特質を、さまざまな角度から明らかにしようとするもの」と語る。日本陸軍の誤謬(ごびゅう)を昭和のある時期を起点に明治の建軍期にさかのぼるという手法に対して、著者は「明治国家において確立された政軍関係」がいかに解体されたのかを確認したいとの姿勢を明確にしている。
 この論点を浮きぼりにするために、本書は序章を含めて5章から構成される。1979年(第3章)、85年(第2章)、91年(第1章)にそれぞれ発表された論文に、今回新しく序章「予備的考察」と第4章「宇垣一成の一五年戦争批判」が書き下ろされた。序章では、明治憲法の不透明さが政治家や軍人によってどのように克服されていたか、なかんずく政党と軍の協調関係が一定のバランスを保っていたことを論述していく。一方で陸軍内部の派閥を具体的に説きつつ、陸軍省軍務局(陸軍大臣-次官-軍務局長-軍務課長)の主流ライン、とくに軍務局長がいかに長州出身者によって占められていたかを指摘する。
 明治陸軍の二つの顔がその後にどう影響したのか。本書の中には著者の自説が具体例を論じたあとにさりげなく書かれている。たとえば明治陸軍内部にはより軍事上の専門知識を求めるグループ月曜会が生まれるが、その過程にふれながら、統帥権の意味がヨーロッパと日本とでは逆であることに注目すべきだと説き、「近代的な軍を守ろうとする性格」の統帥権がなぜ歪(ひず)んだかを読者に考えさせる筆の運びとなっている。
 30年余も前に書かれた論考であるにもかかわらずその視点は正確で鋭い。とくに第3章で1931年9月の満州事変から36年2月の2・26事件までの4年半を丹念に論じ、宇垣一成の系譜を引く南次郎陸相の軍制改革を論じた点、第2章の1915~16年の反袁世凱政策のもとで「支那通」の軍人たちの歴史観、たとえば山県初男らの雲南援助論など辛亥革命後の中国で日本の果たすべき役割(むろん帝国主義的側面もあるが)を分析しての特徴を吟味すると、著者によって研究の枠組みが広がったことが改めて理解できる。
 本書の圧巻は、宇垣一成について著者なりの視点で描きだした軍人・政治家像にあるのではないか。この軍人についての研究は未(いま)だ充分とはいえないが、著者はこの軍人が明治陸軍の功罪を背負いながら大正時代を動かし、そしてその系譜の者が昭和で紡ごうとした流れを冷静に記述している。
 それゆえ日記をもとに昭和の宇垣の心情を解きほぐしていく第4章は首肯できる。もし東條英機でなく宇垣首相なら日米戦争は避けられたかの仮説は説得力がある。
    ◇
 筑摩書房・2730円/きたおか・しんいち 48年生まれ。政策研究大学院大教授(日本政治外交史)。立教大教授、東京大教授を経て現職。04~06年は日本政府国連代表部次席大使。著書『日本陸軍と大陸政策』『清沢洌(きよし)』『日米関係のリアリズム』など。
    --「書評:官僚制としての日本陸軍 [著]北岡伸一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2012年10月21日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2012102100010.html
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