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書評:田野大輔『愛と欲望のナチズム』講談社、2012年。

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田野大輔『愛と欲望のナチズム』講談社、読了。ナチズムは性愛の乱れに厳しく、大戦後の道徳の復興を掲げたというイメージが強いし、それを証左する研究には類挙の暇がない。しかし、実際のところ、ナチスの「性」政策は多様である。本書は一枚岩ではないその実態を明らかにする。
確かにナチズムは出産奨励を掲げ、性生活に介入した……。しかし、不倫や婚前交渉を肯定する一派も存在したのである。「性」の容認は、兵士供給に必要不可欠である。しかし、それは同時に抑圧された民衆のガス抜きとしても位置づけられている。性のみだれを批判しつつも、ヌード雑誌に寛容であった。
そもそも性愛とは人間の根源的欲望の一つといってよい。それを動員することでナチズムという非人間的な体制が成立したのである。もっとも性愛に寛容といっても、風紀は国家が規定する。人口増加に直結しない同性愛を一層したように、ナチズムの目的にそむかないかぎりでの「性」の容認である。本書は、このホンネと建前の言論を一次資料から丹念読み解みといていく。イメージを一新する好著である。
(以下、蛇足)
戦時下の出産奨励と出産に直結しない性愛の制限を見ていると、ここには「生産性」のある「人間」が「国家」にとって「有益」であるという発想が存在することが理解できる。唾棄すべき考え方だと思う。しかしそうした人間観は今なお根強く残っている。人間の存在は階層秩序化されるものではなく、そもそも「ありてあるもの」だ。
先だって、猪瀬直樹副知事がマイノリティの人権を「認める」と発言した。本来人権とは「ありてある」もので、誰かが「認める」ものではない。ここにも同じような、人間を「つかえる存在」と「つかえない存在」に建て分ける発想がある。そしてその「認める」と仰る副都知事閣下が表現の自由の「制限」に吝かではないことは留意すべきではないだろうか。
https://twitter.com/inosenaoki/status/269493886378971137
有用性の論理と、人間の自由を制限ないしはコントロールしようとする発想は、実のところ、極めて親近性が強いのではあるまいか--。
性愛とは人間の根源的欲望の一つである。そしてその根源的欲望とは、人間精神の自由が土壌として存在しないかぎり十全なものとはなり得ない。両者を押(抑)さえることが為政の「要」の歴史であったことを踏まえると、こうした生-権力とどう対峙していくか。
決して過去の話ではない「ことがら」として、ナチズムの歴史とは向き合っていかなければならない。
「生めよ増やせよ」は、「生めよ」、「増やせよ」ができない「人間」を非・人間として扱う二律背反でもあるわけだ。
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