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書評:原武史『団地の空間政治学』NHK出版、2012年。

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 本書で縷々明らかにしてきたような各団地での自治会や居住地組織の多様な活動は、「私生活主義」に収まらない「地域自治」の意識を目覚めさせるとともに、プライベートな空間の集合体である団地と社会主義の親和性をあぶり出した。それが「私生活主義」へと大きく傾くのは、一方で高島平団地のようにエレベーター付きの高層棟が主流となり、他方で多摩ニュータウンに代表されるニュータウンの時代が本格的に訪れる七〇年代になってからだ。
 五〇年代から七〇年代にかけて、コンクリートの壁を打破するために住民が取り組んできた団地の政治思想史から学ぶべきものは多いはずである。
 団地の時代はまだ終わったわけではない。東日本大震災の被災地に建てられた仮設住宅という名の集合住宅で、集会所や共有スペースが欠くべからざる役割を果たしているのを見るにつけ、ますますその感を深くする。
    --原武史『団地の空間政治学』NHK出版、2012年、267頁。
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高齢化の進む大都市圏の住宅団地も高度成長期にかけ、元気な時代があった。東西の大型団地を取り上げ、その歴史的成り立ちと住民意識、団地自治の生成とその“革新”性の政治意識を明らかにする。本書は戦後庶民史を新しく照らすフィールドワークである。
旧体制との断絶を強調する社会主義や全体主義は「政治」が「空間」を形成する。それに対して日本では、「空間」が「政治」を形成した。古くは宮城前広場、近くは団地がそれである。成長期の革新「意識」は団地で熟成されるが、その経緯と挫折の分析は興味深い。
サルトルとボーヴォワールの香里団地訪問(劣悪な環境と指摘)、竹中労が高根台団地自治会長だったエピソードには驚愕した。自治会長時代に培われた人間観察とひとびととの交流は、竹中の柔軟なアナキズムを生成する土台になったようである。次は『レッドアローとスターハウス』新潮社を読もう。
(以下、蛇足)しかし、団地で面白いなあと思ったのは、集合住宅の家屋設定として日本で初めて「プライバシー」が守られた空間が団地であったということ(屋内の風呂場設置とシリンダー錠の採用)。しかし、その極めて個の世界としての個々の世帯が、団地という共同の「枠」で協同していったということ。全般としては隆盛から挫折への流れだけど、留意すべき学ぶべきものはあると思う。
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