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覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『ガルブレイスを読む』=中村達也・著」、『毎日新聞』2012年10月28日(日)付。

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今週の本棚:伊東光晴・評 『ガルブレイスを読む』=中村達也・著
 (岩波現代文庫・1491円)
 ◇現代資本主義の特質を知る手引書
 二〇世紀の経済の歴史をふりかえると、先進国での巨大企業体の出現が浮びあがってくる。それは電機、化学、石油、自動車など、新産業だけでなく、製鉄や食品などにも及びそれらの企業が各国の中枢に位置し、経済をリードしている。だが、これを分析するはずの経済理論の多くは、小規模の、多数企業からなる競争的市場を前提にしている。前提が、現実と異なるのである。アメリカの新古典派経済学がその典型である。
 だが、例外はガルブレイスであり、その主要著作は、巨大企業の行動とそれがつくりだす現代資本主義の特質を明らかにしようとするものである。しかも、その著書の多くが大部で、ベストセラーとなっている。
 大部というのは、読み通すのが難しいことでもある。それゆえ、本書のような手引書があると便利である。
 この本の構成は次のようなものである。ガルブレイスの三部作--主著『ゆたかな社会』(一九五八年)、巨大企業の解剖である『新しい産業国家』(一九六七年)、そしてこれらを総括する『経済学と公共目的』(一九七三年)--のそれぞれについて、まずそれらの本から注目すべき一節を“ガルブレイス語録”として並べ、ついで執筆当時のアメリカ経済ないし経済学の状況を概説し、そのうえで主要内容を記述していく。そしてこの三部作の前後の章に同じ構成で『アメリカの資本主義』(一九五二年)と『権力の解剖』(一九八三年)を置いている。
 ガルブレイスの巧みさは、出版社から“アメリカの貧困”についての本をたのまれ、『ゆたかな社会』という表題にし、かつての物質的貧困の減退にかわり、大企業の広告・宣伝による欲望造出によって、充(み)ち足りない大衆の精神的窮乏感が生れ、欲望が生産に依存するという意味で、“依存効果”という新しい用語をつくるところにある。経済理論上は、新古典派の消費者主権の否定である。
 同時に、不況対策をうつと静かなインフレがおこり、利潤を求める私的産業部門の成長に対し、教育、インフラ等に関係する公共部門がおくれるという“社会的アンバランス”を強調する。
 『新しい産業国家』では、経営における権力の所在が、経営者から、それを支える各部門の専門家集団へ移りだしたことを明らかにし、かれらに“テクノストラクチュア”なる新語をつけていく。そしてその経営は、長期視点での投資を必要とするところから、計画的に行われ、製品価格も当の企業が決定していく“計画化体制化”にあるとする。そのいずれもが、新古典派の経済学者の通念を刺戟(しげき)し、反論をうけた。
 この本は一九八八年に出版されたものに加筆・改訂を施し現代文庫に収めたものである。主な加筆は、ガルブレイスの最初の本ともいえる『アメリカの資本主義』までの間に出た二十七本の論文内容を説明し、九〇年代以降の論文とガルブレイスの考えに言及した補論である。これによって文字どおり、“ガルブレイスを読む”になった。つけ加えたいのは二点。
 『大恐慌』(一九五五年)を章としてとりあげてほしかった。それは八〇万部出ただけでなく、ニューディールに先立つアメリカでの大崩壊の定説をつくりだしたからである。第二はサムエルソンとガルブレイスの対比を--本書にあるように、互いの評価だけでなく、理論、分析武器の違いで論じてほしかった。費用曲線の違い、労働市場分析の比較等である。
    --「今週の本棚:伊東光晴・評 『ガルブレイスを読む』=中村達也・著」、『毎日新聞』2012年10月28日(日)付。
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http://mainichi.jp/feature/news/20121028ddm015070016000c.html
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