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覚え書:「今週の本棚:養老孟司・評 『構図がわかれば絵画がわかる』=布施英利・著」、『毎日新聞』2012年11月04日(日)付。

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今週の本棚:養老孟司・評 『構図がわかれば絵画がわかる』=布施英利・著
 (光文社新書・1092円)
 ◇美術作品への感動から解剖学の根本に迫る
 絵がわからない。そういう人はかなりいるのではないか。私はそう疑っている。私自身が絵心がないからである。どのくらいないかというと、小学生の時になにを思ったか、母親が絵の先生に入門させたが、一回で終わった。描いた絵が色が変だというので、家族のなかで議論が生じたからである。私もそれ以上、描く気がなくなった。高校生のときの図画の授業ではデッサンのモデルにされた。椅子に座っていただけ。先生は私に絵を描かせるだけムダだと思ったに違いない。
 でもこの本を読み終わったら、見る風景がことごとく構図に見えだした。レストランで席をとるのも、部屋のなかのどの椅子に座るのかも、そこから見える風景の構図で決めようとしている。そんな気がしてきた。
 構図を理解させるために、まず本の章立てがきちんとしている。平面、奥行き、光、人体という大分けがあり、それがさらに平面なら点、垂直線、水平線という小分けになる。それぞれについて、たとえば古今東西の名画を利用した解説がある。若いときにこの本を読んでいたら、もっと絵がわかったのに。
 芸術がわかるためには、まず作品に感動する必要がある。感動すれば、なぜすぐれた作品か、それを自然に考える。私は感動しなかったから、考えなかった。人の創ったものに興味はない。そう思っていた。でも自然が創ったものだと、相手が虫でも感動する。
 著者は違う。作品を見て感動する人である。つまり絵画や彫刻や庭園や建築である。これらは「見る」もので、見たものがなぜ感動を生むか、それを自分で理解しようとする。それがこういう本になる。
 この分析の力は鋭い。著者が若いときは、解剖図の研究で学位を得た。これはすぐれた仕事で、そういう見方をすればいいのかと私は驚いた。著者の専門は美術解剖学で、これは絵画や彫刻をやる人にとって、人体解剖の知識が必要であることから生じた学問である。レオナルドやミケランジェロの時代には解剖を学ぶことがほぼ必須だった。
 解剖学は見たものを概念化し、論理化する学問の「方法」である。現代風にいうなら見えた人体あるいは生物体を情報化する。言葉にしたり、論理にしたりすれば、他人に伝えることができるからである。
 その意味では著者の方法はまったく解剖学と同じである。相手が美術作品だというだけのこと。解剖する対象で学問を分ければ、人体解剖学は人体そのものを扱うことになる。でも解剖を方法と考えたら、なにを解剖したっていい。見たものを精密に分析して、伝達可能にする。だからこの書物は、右の意味では「美術作品の解剖学」である。
 解剖学が別な形で固定してしまったのは、組織的に学問をするからである。大勢の人が研究をしていけば、自然に常識ができてしまう。そこで忘れられるのは、見たときの感動である。それが根本にあって、もっと見たい、調べたいという欲求が生じる。この本はその解剖学の根本を、美術を通してよく伝えてくれる。
 われわれは見たものをたえず吟味する。絵画はそれを人の作業として、みごとにまとめて示す。著者はいう。われわれの周りには宇宙がある。芸術作品とくに構図はそれを要約し、目に見えるもの、耳に聞こえるものにしてくれるのだ、と。
 最後に本書そのものの構図はどうなっているだろうか。終章にはなんと釈迦(しゃか)の一生が書かれている。それを著者の構図にどうはめ込むか。それが読者に与えられた謎ときである。
    --「今週の本棚:養老孟司・評 『構図がわかれば絵画がわかる』=布施英利・著」、『毎日新聞』2012年11月04日(日)付。
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