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覚え書:「書評:石炭の文学史 池田浩士著 [評者]川村 湊」、『東京新聞』2012年12月09日(日)付。

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石炭の文学史 池田 浩士 著

◆失われた生活掘り起こす
[評者]川村 湊 文芸評論家・法政大教授。著書『補陀落』『原発と原爆』など。
 玄海原発を見に行った時、近くに『にあんちゃん』の舞台となった炭坑(廃坑)があることに気が付いた。本書にも取り上げられている『にあんちゃん』は、差別と貧困に苦しむ在日韓国人の「坑夫」一家の生活を、末っ子娘の安本末子が書いた日記だ。
 石炭から石油へ、そして原子力へというのが、ついこの前まで、真顔で語られていた近代日本のエネルギー政策の趨勢(すうせい)だった。石油が石炭を滅ぼし、原子力は石油に取って換わる(はずだった)。資源としての石炭、産業としての炭鉱、文化としての炭坑節や「炭坑文学」なるものは廃れてしまった。斜陽産業の象徴だったボタ山も、スラム化した炭住も、とうの昔に姿を消した。そんな時代に「石炭」のことを語るのは時代遅れ、時代錯誤も甚だしい…。しかし、本当にそうだろうか?
 「海外進出文学」論第II部としてまとめられたこの大著は、プロレタリア文学としての炭坑文学、国策文学として書かれ生産文学と呼ばれた炭坑小説、台湾・朝鮮・満洲における炭坑に関する文学作品、そしてエネルギー転換の名の下に、石炭産業を切り捨て、炭坑で働く人々の職場と仕事を一挙に奪い取った「合理化」運動の過程と歴史を、厖大(ぼうだい)な文献・資料・記録によって再構成した、文字通りの労作である。地の底から掘り出してきた「黒ダイヤ=石炭」は、地表に現れると、誰も顧みないガレキとしか見えなくなる場合がある。だが、失われた「過去」を掘り出す作業が、現在を、そして未来を改めて照らし出すことを、私たちは忘れてはいけないのだ。
 福島原発の近くには常磐炭坑が、浜岡には相良油田が、柏崎・刈羽近辺には小さな油井(ゆせい)群があった。そうした石炭・石油エネルギーの廃墟(はいきょ)に原発が作られていったことを思えば、石炭の歴史を語ることは、まさに「即物的」に現在への痛烈な批判となる。3・11以後の本書の刊行は天の配剤である。
いけだ・ひろし 1940年生まれ。京都精華大教授、ドイツ文学。著書『虚構のナチズム』など。
(インパクト出版会 ・ 6300円)
<もう1冊>
 畑中康雄著『炭鉱「労働」小説集』(彩流社)。北海道の三井芦別炭鉱で働いた著者が、炭鉱労働や暮らしを生き生きと描いた作品。
    --「書評:石炭の文学史 池田浩士著 [評者]川村 湊」、『東京新聞』2012年12月09日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2012120902000158.html


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