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覚え書:「引用句辞典 不朽版 王政復古=鹿島茂」、『毎日新聞』2012年12月26日(水)付。

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引用句辞典 不朽版
王政復古
鹿島茂

学ぶことをしない私たち
その先に何があるのか

 南仏のいくつかの県において、ウルトラ(超王党)派の動きは手のつけられないほどひどくなっていた。(中略)タレーランは彼らを「国内にひそむ外国人」と激しい言葉で非難していた。そして、彼らに対して歴史に残るような次の言葉を吐いたのである。
 「彼らはなにひとつ学ばず、なにひとつ忘れなかった」と。
 (ジャン・オリユー『タレーラン あるいは知られざるスフィンクス』フラマリオン書店、鹿島茂訳) =邦訳は『タレラン伝』上・下巻(藤原書店、宮澤泰訳)

 エルバ島から戻ったナポレオンが百日天下の最後にワーテルローでウェリントンに破れたとき、元外務大臣のタレーランはナポレオンを見限って再びルイ十八世をかつぎ出して宰相の座におさまったが、しかし、王の周辺にいた「王よりも王党派」のウルトラ(超王党)派の連中に策謀により、政権を追われることになった。このときタレーランが口にしたのが右の名文句で、王政復古というものの本質を見事に語っている。
 つまり、王政復古とは、本質的に「他に選択肢がない」から、一度捨てたものをもう一度拾おうとする「しかたなし」の選択なのである。しかし、「しかたなく」選ばれた者たちがそうは思わないというのもまた王政復古というものの本質である。
 さて、日本でも王政復古である。三年前、「歴史的敗北」を喫して歴史の表舞台から去ったと思われた自民党が「歴史的勝利」によって政権の座に戻ってきた。その前の小泉政権による郵政民営化選挙が自民党の「歴史的勝利」だったのだから、「歴史的」という形容詞は三、四年ごとの総選挙のたびに繰り返されるわけで、本来最大級であるはずの形容詞もずいぶん安っぽい使われ方をするようになったものである。むしろ、「定例の」とでもいいかえた方がいい。
 これは二大政党下における小選挙区制では、ある程度、予想されたことで、日本のように無党派層が最大のパーセントを占める国においては、政権党に執政があって民心がどちらかに少しでも振れれば、勝敗はオセロ・ゲームのようにひっくり返り、「オール勝ち」か「オール負け」になるほかない。自民党は敵失で勝利を得ただけなので、安部政権がすこしでもヘマをやらかせば、内閣支持率はすぐに急降下し、参議院選挙までもつかどうか。
 だが、「王政復古」して政権に戻った当事者たちはそんなふうには考えないだろう。三年前に国民に見放されて惨めに政権の座から滑り落ちた時の反省などケロリと忘れ、国民は自分たちを強く支持してくれていると思い込んでいる。
 つまり、彼らは自分たちが政権を失った理由について「なにひとつ学ばず」、政権にあった間にさんざんに享受した特権や利権のことは「なにひとつ忘れなかった」のである。いずれ、「人からコンクリートへ」というスローガンのもと国土強靱化計画が本格化すれば、膨大な利権に族議員たちが群がって、配分された巨大な予算を巡って分捕り合戦が繰り広げられることだろう。
 ようするに、自民党はなにひとつ変わらず、昔の自民党が「昔の名前で」戻ってきて王政復古となっただけなのである。野にあった三年という時間は彼らが変わるにはあまりにも短すぎた。もう一期だけ野党に止まることができたなら、その間に自民党を本当に変えようとする若い力が台頭したかもしれない。
 私はこれを深く憂慮する。古い利権誘導体質が抜け切らぬ前近代的な党のまま王政復古してしまった自民党は、本格的な二十一世紀が始まろうとするこの時代の変化に応じきれずに終わるのではないか。そのため、必ずや、前と同じ過ちを繰り返すことになるだろう。そのあげく、前と同じように国民に見放されて、三年、四年後には再び「歴史的敗北」を喫することになるだろう。そして、そのときには、もはや立ち直る余力は残されていないのである。
 いっぽう、「歴史的敗北」を喫した民主党にとっては、いまこそ「民主党強靱化計画」に着手する絶好の機会である。しかし、もしかすると、こちらもまた「空想的民主主義」の体質を改善しないままに、次の総選挙でなにもしないのに「王政復古」してしまうかもしれない。
 かくて歴史は繰り返す。そして、繰り返しているうちに、とうとう、最後の大破局がやってくる。そのことは「織り込み済み」としなければならない。ただ、予想できないのは、その大破局がどんなものかという、この一点だけなのである。(かしま・しげる=仏文学者)
    --「引用句辞典 不朽版 王政復古=鹿島茂」、『毎日新聞』2012年12月26日(水)付。

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