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覚え書:「書評:BOOKS ON JAPAN 1931-1972 森岡督行・著」、『読売新聞』2012年12月09日(日)付。

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BOOKS ON JAPAN 1931-1972
森岡督行・著
ビー・エヌ・エヌ新社・3800円

評・ロバート キャンベル(日本文学研究者 東京大教授)

「美しい」プロパガンダ

 見開きを占める大きな画面に、青空が淡く光っている。ふわりと浮かぶいくつもの真っ白な水玉は、よく見ると、数十個の落下傘であり、また左ページから数行に分かれて英語の詩が印刷されている。目をやると、状況がやっと飲み込める。訳してみよう。「敵兵の待つ異国の大地の上。たとえこの身が死んでも栄光ある我らが任務は、新たな命を、いっそうの希望を、アジアの復活のためにもたらすことだ……」。
 太平洋戦争中、日本の陸軍参謀本部が作らせた東方社という出版社の発行した雑誌『FRONT』「落下傘部隊号」の一図である(1942年)。潤沢な資金と一流のカメラマン・編集者を投入すれば、国家プロパガンダもかくも美しい。目を喜ばせると同時に、見る人を震撼させたに違いない。
著者が長い間集めてこられた日本の、欧文による「対外宣伝グラフ誌」を時代順に並べ、豊富な図版と簡潔で用を得た解説を加えている。考えてみると、不思議な一冊だ。平和の世の中も戦中も、日本人はたゆまず外国と外国人に対し自らの文化水準や軍事力の高さ、観光、輸出産業、博覧会と五輪開催の優秀性をアピールしてきた。にもかかわらず、これらの営為を同じ土俵に並べて理解しようとする人はいない。本書の魅力は、「対外宣伝」を広くとらえた点にある。デザインとして見ても抜群に面白い。
 40年間は、人生で言えばふり返れる程度の期間だが、20世紀の中央に寄せてみればとてつもなく長く、また分岐点に満ちた歳月であったように感じる。一方、満州事変(1931)から札幌オリンピック(1972)を「対外宣伝」から眺め直すと、緩やかに打ち返す歴史の波紋も、感覚で掴むことができる。一見の価値がある。

◇もりおか・よしゆき=1974年生まれ。都内で写真集や美術の古書店を営む。著書
    --「書評:BOOKS ON JAPAN 1931-1972 森岡督行・著」、『読売新聞』2012年12月09日(日)付。

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