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書評:加藤節『南原繁 --近代日本と知識人』岩波新書、1997年。

すぐれた評伝が新書に収録されると初学者にその輪郭を理解するうえで好都合なことはいうまでもない。近代日本を代表する政治学者にして、戦後民主主義の枠組みづくりに大いに貢献した南原繁の足跡をスケッチしたのが本書である。類書が少ないなかで恰好の一冊となっている。

著者の加藤節氏は、丸山眞男と共に南原繁に学んだ福田歓一門下。いわば南原の孫弟子という。
周知の通り南原は無教会主義者内村鑑三の直弟子である。信仰の立場からこの世の仮象に過ぎないものを撃つ内村の批判的理想主義の眼差しを引きつぎ、どのようにそれを具体化していくのかが南原の課題となる。

戦中の労作『国家と宗教--ヨーロッパ精神史の研究』(岩波書店、1942年)から戦後、東大総長に就任して、民主主義基礎論への展開が、まさにその課題実践の経緯である。

戦前の国家至上主義は血を吸うことで成立したが、その反省をふまえ、戦後民主主義としての国家像は「道義的国家」と定位されることになった。そしてそれが日本国憲法の要請でもあると南原は説く。

昨今、国家を規制する憲法を無視したり、改革という美名のもとに、倫理や徳といったものを「えい、やッ」とばかりに放擲する姿に拍手が送られるなか、反倫理的な行為を抑制し、理想追求へ不断の努力を怠ってはならないと筋道をつけた南原の足跡は、時代を照射する輝きが秘められている。

おもえば首相・吉田茂は南原繁を「曲学阿世の徒」と罵った。

パワーゲームは、パワーを批判する人間を「曲学阿世の徒」と封じ込めてしまう。吉田は偉かったとは思うが、限界も存在するのであろう。根源的批判の眼差しをどこかで持ち合わせぬ限り民主主義は成立しない。

さて、著者の加藤氏は、本書刊行後、「南原繁研究会」を組織し、テーマ別に共同研究を主催、その成果を精力的に発表している。本書を読み終えられ、深く考察したいというとき、EDITEXから刊行されている報告を読むことを進める。

ともあれ、本書は、「振り返ってみなければならない」人物の優れた入り口になろう。


南原繁研究会のwebは以下のとおり。

http://nanbara.sakura.ne.jp/


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