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書評:ダン・ストーン(武井彩佳訳)『ホロコースト・スタディーズ 最新研究への手引き』白水社、2012年。

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……ジャック・デリダ、エミール・ファッケンハイム、テオドール・W・アドルノ、エマニュエル・レヴィナスらの哲学は、ホロコーストなしでは理解不能である。同じように、イムレ・ケルテース、ピョードル・ラヴィッチ、レイモンド・フェダマン、ホルヘ・センプルン、サラ・ノンベルグ=プルシティク、イダ・フィンク、ヘンリク。グリンベルグらの小説や短編、パウル・ツェラン、エドモン・ジャベス、イェジー・フィツォフスキの詩についても同じでああろう。今日、証言(テスティモニー)という分野が存在し、盛んであるのも、ホロコーストゆえと言ってよいだろう。最後に、「想起の文化」、文化遺産、過去を記憶し記念することで得られる癒し--こういったものに対するわれら西洋人の強迫観念も、ホロコースト認識が社会の中心的位置を占めるようになった事実と関連している。こういった流れについてこの本では、取りあげることができないが、私が述べることはこうした認識を背景としており、ホロコースト後の思想を採り入れたものであると、読者の皆さんは理解されるものと思う。この本はホロコースト史学の研究だが、私はよき歴史家というものは、さまざまな学問と思想の中から、この世界の意味を紡ぎだしてゆくものだと考えている。なぜなら人間がこの世に創りだすもの自体が歴史の一部でえあり、それゆえ歴史化しうるし、またそうせねばならないからだ。私の仕事は、哲学や文学論、人類学などに影響されており(またその知識があると信じたいが)、また学問としての歴史学は、さまざまな手法、史料、様式に対し心を開くときに最も効果があると信じている。それゆえこの本は複数形でHisitories of the Holocaust と題されている。その理由は、ホロコーストについてはたくさんの競合する(また補完し合う)記述が存在するためであるが(その主要な議論を私はこの本で紹介する)、また同時にこれからも満足のいく、単一かつ完全な記述など決してありはしないし、あるべきでもないからだ。現在、実に多種多様な研究が展開しているということ自体、何にでも単純にけりをつけたがる現代(モダン)(もしくは「ポストモダン」)文化に対する最も効果的な抵抗となるだろう。過去を「終わらせないこと」、常に変化し続けるということ、これこそが歴史家が貢献しうる人間のさまざまなあり方であり、こうして自由が広がるのだ。
    -ダン・ストーン(武井彩佳訳)『ホロコースト・スタディーズ 最新研究の手引き』白水社、2012年、17-18頁。

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ダン・ストーン『ホロコースト・スタディーズ』白水社、読了。ここ20年、ホロコースト史学は急速に発展したが、何から読めばいいのか。本書は「最新の研究の手引き」。筆者は加害と被害を真摯に取りあげながらも証言への敬意を忘れない。ホロコーストを総合的な視野で世界史のなかに位置づける試み。


ダン・ストーン(武井彩佳訳)『ホロコースト・スタディーズ 最新研究への手引き』白水社。出版社による内容紹介(目次含む)


 http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08237


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