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覚え書:「書評:『ヴィジュアル版 国家と国民の歴史』 ピーター・ファタードー編」、『読売新聞』2013年01月06日(日)付。


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『ヴィジュアル版 国家と国民の歴史』 ピーター・ファタードー編

評・杉山正明(ユーラシア史家・京都大教授)
視覚で訴える多様性


 本書は、いわゆる世界史の教科書とはほど遠い。似て非なるものである。

 一見するとコンパクトなかたちで、ところが実は世界の主要各国の歴史と現在が随分と詳しく叙述され、その気になれば一気呵成
かせい
に世界史の根幹を見渡せる仕掛けになっている。これまでありそうでいて、意外になかった類いのユニークな企画本といったらいいか。

 採り上げられているのは28か国。通称ではエジプト、現在の正式な国名ではアラビア語で「ミスル」という古き国から、1948年の血なまぐさい戦争で“勝利”したとされるイスラエルにいたるまでの諸国が対象となる。それに対応して、各国からひとりずつ歴史学者が選抜もしくは依頼されて、合計28人。それぞれ全く独自のセンスと発想で、自国の歴史と国家観、アイデンティティーを綴
つづ
る。全体をある枠組に従って定型的に仕切り、統一的な叙述をおこなうという気は微塵
みじん
もない。

 その結果、当然のことながらテーマ・内容・書き方も、見事にてんでんバラバラ。しかし、かえってそれが各国の独自性を際立たせている。素朴に見えるが、その実まことに巧妙な編集戦略といっていいかもしれない。そもそも世界全体を統一的に述べるなどということが、どこかナンセンスなのだから。

 くわえて、各国・各時代の歩みを象徴する絵画・写真など200点を超える精選されたカラー図版が要所に配され、視覚的にも人類文化の多様さを見事に読者に訴える。ヴィジュアル版ならではの魅力である。

 日本は最後から3番目。その直前がイタリア、直後がドイツ、最後がイスラエル。この並びに「いわく」を感じる人もいるかもしれない。日本についての執筆者は成田龍一氏。戦争・女性・国民意識における記憶の役割など、いかにも近現代史家らしい文章となっている。末尾で東日本大震災に触れ、「日本におけるひとつの時代の終わり」と述べているのがまことに印象的であった。日本語版監修猪口孝、小林朋則訳。

 ◇Peter Furtado=イギリス王立歴史協会フェロー。

 原書房 5800円
    --「書評:『ヴィジュアル版 国家と国民の歴史』 ピーター・ファタードー編」、『読売新聞』2013年01月06日(日)付。

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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130107-OYT8T00980.htm


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