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覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『大正という時代』=毎日新聞社・編」、『毎日新聞』2013年01月27日(日)付。


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今週の本棚:伊東光晴・評 『大正という時代』=毎日新聞社・編

 (毎日新聞社・2520円)

 ◇不穏な日々“やわらかな社会”に憧れた人々

 昭和のはじめに生まれ、戦時中に小中学校時代、戦後に大学教育を受けた私には、「大正」という時代は、父や中学の教師たちのイメージと重なっている。

 大正生まれの人は、私がイメージする「大正の人」ではない。かれらは昭和の軍国主義時代に青年期をむかえ、戦地におもむいた「昭和の人」だからである。「大正の人」は明治に生まれ青年期を大正という時代にすごし、その時代風潮を持ちつづけた人である。

 この本は、この大正という時代をとりあつかった毎日新聞の1年間11回の記事に、この時代の文化と政治と社会を語る3つの対談を加えたものである。

 大正といえばまず大正デモクラシーであろう。それは第一の座談会にあるように、現実にあったわけではなく、「可能性としてあった」「美しさ」であり「輝き」だった。現実の選挙で露骨な買収の横行があったことや、多様な人がいたことを、2章の「大正デモクラシー」はとりあげている。しかし、それが持っていたやわらかな社会への憧れは、私の思う「大正の人」に共通していたように思う。

 3章は「船成り金」とその反動があつかわれているが、ヨーロッパの戦争で、アメリカも日本も経済が躍進したことを忘れてはならない。それが第二の座談会(13章)にあるように層としてのサラリーマンを生みだし、高等教育の拡大、そして大正モダンを生んだのである。

 ちょっとおしゃれでモダンぶり、外では建前を言うが、家の中では馬鹿な戦争などと平気で言い、表と裏を使いわけ、天皇は神ではなく、右も左も硬派が嫌い。父がそうであったが、教師も、昭和の時流に逆らわないが、好きではないという人たちだった。そこにひ弱な大正リベラリズムの影があった。

 この本には、たびたび皇室や皇族が登場する。原武史氏が座談会をはじめ何度も登場するためであろう。その中で、そうだと思うのは、明治天皇、大正天皇、昭和天皇の与えるイメージの違いである。

 大正天皇は皇后と二人で地方を旅行した。私が知る戦前の昭和天皇は、軍服・軍刀で白馬にまたがっていた。明治天皇はヒゲをはやし御真影の中にいた。皇后とつれそって歩くことはなかった。この違いが大正という時代だというのは、卓見である。この点で平成の天皇は大正に連なると。

 天皇機関説が発禁になるのが昭和、公認が大正だった。

 中国への21カ条要求とこれに反発する中国青年たちの五・四運動、ロシア革命とシベリア出兵、国内では「米騒動」そして行きついたところに「関東大震災」。この本から項目を拾うと、大正は平穏とはほど遠い時代だったことがわかる。

 「元始、女性は太陽であった……」で始まる「新しい女=青鞜(せいとう)」も、事実上大正のはじめだったが、「関西興隆」(11章)はうなずきながら読んだ。政治の東京に対し、大阪が輝いた時代が大正だった。商都大阪、新聞は朝日も毎日も大阪が本社、私鉄が国鉄と無関係にターミナル、デパートをつくり、住宅開発をした。その中で宝塚も発展した。大阪の名市長関一(せきはじめ)は、学者で政策者として、高く高く評価されなければならない人だろう。これを読んで「橋下大阪」の出現が、大阪の行方を象徴しているような気がした。

 すらすら読める。座談会も面白く、その中に自分も入りたくなる。「ラジオ放送開始」の章を見ると、試験放送も聞いたと自慢していた新しがり屋の父を思い出す。これも大正だった。
    --「今週の本棚:伊東光晴・評 『大正という時代』=毎日新聞社・編」、『毎日新聞』2013年01月27日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130127ddm015070039000c.html

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