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覚え書:「書評:月―人との豊かなかかわりの歴史 [著]ベアント・ブルンナー [評者]横尾忠則」、『朝日新聞』2013年02月10日(日)付。


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月―人との豊かなかかわりの歴史 [著]ベアント・ブルンナー
[評者]横尾忠則(美術家)

■多くの優れた芸術生み出す

 キース・ヘリングは恋人に呼び掛けるように月に想(おも)いを語り、それをTシャツに書いた。フェデリコ・フェリーニは映画「ボイス・オブ・ムーン」の中で月が自分を呼ぶ声を耳にした男を描いた。
 ヘリングもフェリーニも、芸術家はアポロ計画によって神秘のベールを剥ぎ取られ物理的な土の塊としての現実となった月には全く関心を示そうとはしない。
 本書は、月の探究を通して私たち自らの謎の解明に迫ることが可能では、という試みでもある。確かに月は、人間の長い歴史の中で芸術家でなくとも想像力の源泉としてあり、月を主題にして多くの優れた芸術作品が生み出されたが、その記録の書である。
 人格化または神格化としての月はわが「竹取物語」に代表されるように、人間の運命にも深く関与している。天体と地球の関係は幻想を超えてもっと身近に体感してきた。日頃われわれは月の存在とその重要な働きにはほとんど無関心でいるけれど、月が地球の地軸のバランスをとってくれていることで地球の生命が今の姿で存在しているという事実を知れば知るほど月を見る目も変わるのではないだろうか。
 だけれど、一方ではかつての米ソ冷戦時代の対立の中での駆け引きによって皮肉にも人類が驚くほど早く月に立つことができた。このことで夢が未来に一歩前進したかもしれないが、われわれが心の中に宿した人格としての月との対話を失ったことは確かだ。かつての想像力の対象としての月に比べれば「月は退屈」(カール・セーガン)な代物になってしまったのも事実である。
 「ボイス・オブ・ムーン」のラストで、野原の井戸に耳をすます主人公に、月の声が囁(ささや)いていたのを思い出した。「もう少しの静寂があれば、皆も静かにしていれば、囁きの意味がわかるかもしれない」
    ◇
 山川純子訳、白水社・2625円/Bernd Brunner 64年生まれ。ドイツの文筆家・編集者。著書に『熊』など。
    --「書評:月―人との豊かなかかわりの歴史 [著]ベアント・ブルンナー [評者]横尾忠則」、『朝日新聞』2013年02月10日(日)付。

http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2013021100011.html


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月: 人との豊かなかかわりの歴史
ベアント ブルンナー
白水社
売り上げランキング: 73,787

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