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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 対人支援インフラ整備を=湯浅誠」、『毎日新聞』2013年02月22日(金)付。

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くらしの明日
私の社会保障論
対人支援のインフラ整備を
湯浅誠 反貧困ネットワーク事務局長

自殺対策が生み出した利益3000億円

 お金の話をしたい。
 交通事故で人が亡くなると、加害者は被害者遺族に対して賠償する。その金額は逸失利益を踏まえて算出される。その人が生き続けたら生み出されたであろう利益が亡くなることによって失われた、だからそれを保障すべきだ--という考え方だ。
 命はお金では償えないし、逸失利益の考え方にはさまざまな批判もある。しかし、ここでは一つの算出方法として現実に機能していることを確認するにとどめる。本題は別にあるからだ。
 昨年の自殺者数が15年ぶりに3万人を割り込み、2万7766人となった。09年の3万2845人から約5000人減少したことになる。もちろん、亡くなった人がよみがえることはないが、「生きる支援」という自殺対策が進んだ結果、例年に比べて5000人の方が「命拾い」したことも間違いない。
 自殺により逸失利益が生じることは、交通事故と変わりない。厚生労働省は、09年の自殺による経済的損失を1・9兆円と推計した。3万人余りが亡くなって喪失が1・9兆円とすれば、5000人なら約3000億円。自殺対策によって約5000人の方がより多く生きられる状態を実現した結果、私たちは約3000億円の損失を免れたことになる。言い換えれば、社会に3000億円分の利益がもたらされたということだ。
 09年以降、自殺対策は「地域自殺対策緊急強化基金事業」によって予算措置されてきた。09~12年度で137億円。私たちの社会は137億円の支出で約3000億円のリターンを得たことになる。費用対効果は約22倍だ。
 実際には、この事業の範囲外でも大勢の人たちが直接・間接に自殺対策に取り組み、結果としてこれだけの利益を生んだ。現代の日本社会でここまで費用対効果の高い事業があったかと言えば、そう多くはないだろうと私は思う。


 私たちの社会はいま、対人社会サービスに飢えている。これを最も軽視してきたからだ。道路基盤整備、農業基盤整備、施設基盤整備はやってきたが、いわゆる対人支援基盤整備はやってこなかった。そこは家族(血縁)と地域(地縁)と会社(社縁)でやるものとされてきたが、「無縁社会」という言葉に象徴されるように、その機能は弱まっている。介護、育児や、さまざまな生活困難に追われている人たちは、十分な社会参加を妨げられ、社会は富を失い続けている。
 かつては山道に道路を通すことが高い費用対効果をもたらした。だが今は、対人支援を強化することが、社会を強くする重要なインフラ整備となる。
 いまを生きる人々のニーズに即した財政を望みたい。
ことば 自殺対策 06年に制定された自殺対策基本法は、自殺の「社会的な要因」に目を向けて対策を講じる必要性がうたわれ、これに基づき国の対策の指針となる自殺総合対策大綱が策定された。09年には地域自殺対策緊急強化基金を設置。市町村や民間団体による相談事業など財政面で支援してきた。
    --「くらしの明日 私の社会保障論 対人支援インフラ整備を=湯浅誠」、『毎日新聞』2013年02月22日(金)付。

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