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覚え書:「時流底流 『ミゼラブル』な番号=小笠原みどり」、『毎日新聞』2013年02月23日(日)付。


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時流底流 「ミゼラブル」な番号
小笠原みどり ジャーナリスト

 ミュージカル映画「レ・ミゼラブル」が日本で洋画久々の大ヒットとなっている。人が困難な人生を生きるのに必要なのはなによりも愛と信頼であること、理想のために闘い倒れても精神を受け継ぐ者がいることを、映画は壮大にうたいあげる。
 原作者ビクトル・ユゴーはフランス革命後の、まさに社会の底辺にいる「ミゼラブル(悲惨)」な人々を主題にした。主人公の元徒刑囚ジャン・バルジャンもその一人。飢えた子供のためにパンを盗んで19年間、監獄の鎖につながれた。「番号を与えられ、バルジャンは殺された」と自身を振り返る。
 彼の番号24601は仮釈放後も消えず、番号で呼ばれた。行く先々で身分証明書を要求され、元徒刑囚と分かるや食事も寝床も拒絶される。世間への憎しみが育った。だが銀食器を盗んだ自分を許した司祭の愛に、深く後悔し、身分証を破り捨て新たに生きる決意をする。
 生涯を縛る番号--安倍内閣は民主党政権下で廃案になった共通番号(毎ナンバー)制度法案を今国会に提出する。私たち一人一人に識別番号を振り、収入や健康といった個人情報を集め、政府や企業が本人の同意なしに使う制度だ。顔写真入りのIC身分証も発行する。自民党はこの身分証を全国民に携帯させることを主張してきた。
 学校で職場でインターネットで番号を振られることに慣れた21世紀の私たちに、番号の「鎖」は感じにくい。それどころか便利で、まさか息苦しい毎日と関係しているとは想像もしない。だが悲惨を見すえた19世紀の文豪は、番号が世を壁のない監獄に変える手段だと知っていた。
 バルジャンは幾度も「俺は誰なのか」と自問する。人はよく生きようとして悩み、アイデンティティーを自らの手で織る。個人情報を独占した政府や企業がそこへ介入し、人を「悪人」「貧乏人」「テロリスト」と決めつけてはならない。
 共通番号制は個人を疑い、データで縛る。デジタル時代にさまざまな番号が普及し、人間関係から信頼が失われているのは偶然ではない。だが「レ・ミゼラブル」に震える私たちの心は明らかに不信ではなく、愛を求めている。その感性を政治にも解き放とう。終幕、バリケードで誇らかに歌う民衆の歌のように。
     --「時流底流 『ミゼラブル』な番号=小笠原みどり」、『毎日新聞』2013年02月23日(日)付。

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