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覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『残すべき建築』=松隈洋・著」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。


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今週の本棚:松原隆一郎・評 『残すべき建築』=松隈洋・著
毎日新聞 2013年02月24日 東京朝刊


 (誠文堂新光社・1890円)

 ◇モダニズムの“初心”から解体の無頓着に抗する

 日常の生活で出会う、ちょっとした風景に愛着を覚えることは、誰もが経験しているだろう。誰かのものかもしれない家屋や道が重なるようにして、その合間でいつのまにか熟成してできたかのような情景。

 思えば東北の大震災で、かけがえのない人を失ったこととともに悲痛なのは、町の日常が一瞬にして失われたことだった。建物は新たに建つ。それが復興と呼ばれるが、かつての情景が戻るわけではない。

 私たちも、震災の被災者が、物理的に家屋を失っただけでない辛さを心にしまい込んでいることは理解できている。けれどもこの著者のように感じ、行動する人は少数派だろう。著者が保存に奔走するのは、名建築と称(たた)えられるが老朽化した公共建築や都心のビルだからだ。

 1990年代から、ビルが矢継ぎ早に取り壊されている。2002年に小泉構造改革の一環として「都市再生特別措置法」が制定されたからで、曲がりなりにも景観をコントロールしてきた規制が「開発を阻害する」として大幅に緩和され、超高層ビルが続々と都心に建ち始めた。

 同法が一昨年に改正されると、アベノミクスもあり勢いは加速して、道路上にも建築が可能になったり民間ディベロッパーが開発推進に加わったりしている。そこで多く解体の的となっているのが、著者が訪ね歩き紹介する「モダニズム建築」である。

 ここで言うモダニズムは、1920年代から60年代にかけ鉄やガラス・コンクリートなど工業化された材料を使いながら、生活空間を機能的かつ合理的に再編成する建築運動のことである。それはデリケートな工業化素材を用いただけに竣工(しゅんこう)当時の清新な姿は大きく損なわれたり、普段使いにされて日常的に改変が重ねられたりした。

 そこで機能が古くなったり耐震性に難があったりし、ある日突然に取り壊しと超高層ビルへの建て替えが発表されるわけだ。東京駅近くの東京中央郵便局(吉田鉄郎)、銀座の親和銀行東京支店(白井晟一)、大阪駅南の新朝日ビルディング(小川正)などがすでに解体され、街のたたずまいも損なわれた。

 近々、解体が予定されているものにも、公団阿佐ケ谷団地(前川國男)や法政大学55・58年館(大江宏)がある。

 著者はそうした建築物の保存を訴え、過去に訪ねたが現在は失われた建築物や、幸いにも現存する建築物を『建築ジャーナル』誌で紹介してきた。本書はその後の情勢に細かく注をつけながらまとめた一冊。名建築への愛情と無頓着な解体への怒りが、控えめで端正な文章から伝わってくる。

 とはいえモダニズム建築といえば、画一性や標準化、単一部材の繰り返しが基本とされたため、バブル時代には他との違いを奇矯(ききょう)なまでに誇示するポストモダンの傲岸な建築思想から攻撃を受けた。これに対し本書は、モダニストに分類されるはずの上記建築家や坂倉準三、吉村順三らが、むしろ初心として「人にとって居心地のよい」「街を豊かにする」「材料との対話」「周囲との調和」「立派でなくとも一輪の花のような」脱モダニズム建築を志していたことを跡づけている。

 これらの建築物が「残すべき」とされるのは、既得権のためどころか、そうした初心を公共のではなくとも共有されるべき地域資源とみなすからだ。

 機能が劣れば修復は不可避になる。しかし初心を残さねば何もかも洗い流してしまう。建築物にとっての復興とは、そうした心の持続性であるはずだ。そう諄々(じゅんじゅん)と説く本書を手に、名建築巡りがしたくなる。
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『残すべき建築』=松隈洋・著」、『毎日新聞』2013年02月24日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130224ddm015070038000c.html


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残すべき建築: モダニズム建築は何を求めたのか
松隈 洋
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